過去のひと言


2020年3月その2 東京オリンピック延期?

3月11日 オリンピック・パラリンピック組織委員会の高橋理事(元電通専務)が1~2年延期案を考えるべきだと言い その後 森喜朗会長が慌てて延期発言の火消しをした。 その後 小池東京都知事は 「中止はあり得ない」と言い 橋本五輪相は「年内実施なら延期もあり得る」と発言した。火元の高橋理事は その後更に 5月中に最終決断では遅すぎるのではないかとも言った。実に面白い発言が出そろった。

さすがビジネスマンの高橋氏の意見は合理的だ。WHOがコロナ感染をパンデミックと宣言した以上 オリンピック開催については 今の時点で いろいろのオプションを検討しておくべきと言うのは当然の考え方だ。また 予定通り実施するかどうかは5月末までに判断すると言うIOCの考えも甘すぎると思う。必要となる様々な準備を考えればもっと時間の余裕は必要だろう。ビジネスパーソンから見れば 彼の意見は至極まともにしか聞こえない。

一方 橋本五輪相はさすがスポーツ選手の発想。彼女の発言は オリンピックが7/8月実施に決まった商業上の理由をまったく無視している。オリンピックの開催日時が 他のメジャースポーツと重ならないように 放映上の理由で決まるというのはほとんどの人が知っていることだ。しかもIOCの決定が 放映権を保有しているNBCテレビの意向を無視できないというのも多くの人が知っている。ただし 今回オリンピックが中止・延期になっても NBCは保険をかけているという話なので NBC的には 時期さえ合えば大きな問題ではないのかもしれない。ただし 橋本五輪相の意見は よほど森会長にお灸をすえられたのだろうか 「中止も延期も考えてはいない」と森発言と同じ内容に変わった。

森会長の発言は 自分と異なる意見にはふたするというもので まったくもって不安を呼び起こすだけのものでしかない。もしかすると 今に至っても 組織委は 延期の場合に何が問題になり 予算的にどうなり どういう準備が必要になるかなど全く考えていないのかもしれない。おーっ これは怖い。森会長は自分の意見の何が問題なのかをまったく分かっていないに違いない。本当にこの方がたとえ短い期間でも日本の総理大臣をやっていたことが恥ずかしい。

小池都知事の発言はさすがだ。中止はきっぱりと否定しつつも 延期の可能性はありとしている。いろいろあったが 次の都知事選も小池さんに投票しようかと思う。

あくまでも個人的な感想だが 昨日(3月12日) WHOがパンデミックを宣言し トランプ大統領が突然のごとく欧州各国からの入国禁止を発表した時点で オリンピック/パラリンピックの延期はほぼ既定路線になった気がする。

しかし このままの状況でオリンピックを予定通り強行するリスクを考えれば 1~2年後に延期することが悪いことだとは言えない。世界中の感染騒動が数か月続き 最悪の景気後退がその後も続くとすると ある程度底入れした時期(来年か再来年の夏)にオリンピックで景気づけをすることがまったく割に合わないとは言えない。どこか優秀なエコノミストが 幾つかのシナリオを作って このお金の計算をやってくれないだろうか。おそらく ポイントは予定通り実施か延期かではない。延期期間は1年か2年かということだと思う。明らかなことは 森会長がいる限り この計算を組織委に任せることはできないということだ。

2020年3月 恐怖の感染

このウィルスの感染力はただものではない。新型コロナウィルスの話ではない。インフルエンザの話だ。米国CDCの発表によると 今シーズン 2月8日時点で インフルエンザ患者数は2,600万人 入院者数25万人 死者数1万4千人。つまり 今年2月8日時点で 米国全人口の8%近くがインフルエンザに感染しており この数はまだまだ増えている。今年はかなりひどいらしいが それでも前代未聞というわけではない。米国では インフルエンザによる死亡者数は例年1万2千人以上あり 大流行した2017/18は4,500万人が感染し 6万1千人が死亡している。

日本でも 昨シーズンのインフルエンザ死亡者数は3,300人に上っている。日本は米国の1/3程度の人口なので 人口比で見ると 米国とほぼ同じ割合だ。ちなみに 日本での昨年1月のインフルエンザ死亡者数は1,865人 つまり一日に60人がインフルエンザで亡くなっている。犠牲者の多くは子供や高齢者で 状況は毎年同じようなものだ。

これを日本の11倍の人口がある中国に人口比換算すると 中国ではインフルエンザで毎年3万数千人が死亡していることになる。ちなみに 2月29日現在で 中国における新型コロナウィルスの死者数は2,800人と報告されている。

素人意見だが どう見てもインフルエンザの方が新型コロナより危険だ。実際に米国の某感染症専門医は「インフルエンザの方が新型コロナウィルスよりも感染力が強く 感染者数ははるかに多い」と語っている。インフルエンザ・ウィルスは常に変異を繰り返し感染力を高めているので その対処は実に難しいらしい。

しかし インフルエンザに鈍感な各国政府も 新型コロナには異常ともいえるような反応を見せている。今注目されている2011年の米国映画「Contagion(感染)」のキャッチコピーは 「恐怖はウィルスよりも早く感染する」だった。しかも 感染する恐怖はウィルスそのものよりも大きな影響力を持つ。全く個人的な感想だが 新型コロナウィルスの状況はまさにこれではないかと思う。

2月27日 新型コロナウィルス感染拡大の鎮静化のため 安倍総理は全国の小中高の学校閉鎖を命じた。インフルエンザは学級閉鎖程度なのに 今回は全国一斉だ。働く母親たちのためのバックアップ体制がきっちりと準備されているのかという大きな疑問は残るし 当初の稚拙な発表の仕方もどうかと思う。けれども 今回の安倍総理の決定そのものは正しいものだったと私は思う。

新型コロナはインフルエンザほどではないと言いながら なぜそんなことを言うのか?

最大の理由は 「恐怖はウィルスよりも早く感染する」からだ。新型コロナは未知のウィルスであり ワクチンも治療薬も存在しない。たとえ 新型コロナがインフルエンザほど怖くはないものだったとしても 未知のものへの恐怖は実際持つべき恐怖の何倍・何十倍に膨れ上がるだろう。そして その恐怖はウィルスそのものよりもはるかに恐ろしい結果をもたらしかねない。地域が封鎖され 物流がストップし 非合理な偏見や差別が拡大し 欧米の地下鉄ではアジア人への暴力事件さえ発生している。今回の措置によりウィルス感染者・死者の増加が収まれば 恐怖の感染も収まってくるだろう。学校閉鎖はウィルス対策と言うよりもウィルス恐怖封じ込めのために必要なことだったと私は思う。・・・最後に 映画「Contagion」は今ひとつの出来でした。

2020年2月 新型コロナウィルス 一党独裁体制 そして東京マラソン

新型コロナウィルスの感染力はただものではないみたいだ。それだけに こうした不慮の事態への対応にこそ政府の信頼性が問われている。

ニューズウィーク誌(日本版2月18日号)では 「一党独裁の病巣が感染拡大を助長する」という見出しで 中国政府の対応を批判している。武漢市で原因不明の肺炎患者が相次いで報告されたのが12月上旬。医師が原因不明の感染拡大と警鐘を鳴らし 武漢市当局が原因不明の肺炎患者27人の存在を明らかにしたのが12月下旬。12月末に国家衛生健康委員会が武漢に専門家を派遣している。彼らの武漢視察はその夜の国営テレビ局でも報じられたと言う。

すなわち12月末時点で中央政府は感染拡大を認識していたはずだ。しかし 1月3日には 逆に 警鐘を発した医師たちを処分・摘発。感染報道はその後1月半ばまでシャットアウトされた。その間 党指導部による公の対策はまったく公表されず 習近平が「重要指示」を出したのは1月20日になってからだった。

ニューズウィーク誌はこの状況を「一党独裁国家のソフト上の欠陥」と読んでいる。独裁国家の下 秘密主義が蔓延し 報道の自由も政府による国民への説明責任もなく 官僚制度は硬直化している。これでは危機に直面しても迅速な判断を下すことはできない。この欠陥は中国の現体制が抱える根深いものであるため たとえ今回の騒動が収束したとしても 体制が変わらない限り 何度でも歴史は繰り返すだろうと締めくくっている。

ひるがえって我が国を見た場合 安倍長期政権にも同じようなことが言えないだろうか。党内に対抗者と呼べる者が見当たらず 政権内の多くはイエスマンで固められている。報道の自由は存在するものの 官僚制度は硬直化し 証拠文書は秘密裏に廃棄され 国民への説明責任は見事なほどに無視されている。こんな状況で感染症への迅速な対応など期待できるものではない。

今回の新型コロナウィルス対策を見てもすべてが一歩遅いし 詰めがあまい。中国からの渡航禁止にしても クルーズ船隔離にしても 検査体制や問い合わせ体制にしても マスクの増産体制や抗HIV剤投入にしても すべて一歩遅い。もちろん 現場には大きな使命感で困難に対処している多くの人がいることは承知している。しかし皆を指導し対策をリードする立場にある人たちが どうも トップの意向を忖度しながら 言われた仕事だけをしているように思えてしようがない。とても中国の独裁体制を批判することなどできない気がしてしまう。

さて この感染問題のために東京マラソン(一般ランナーの部)が中止になった。例年にないトレーニングを重ね 気合を入れて準備してきただけに残念で仕方がない。しかし 結果としてはやむを得ない処置だと思う。とりわけ ゴールした後 閉ざされた更衣室での着替えと休憩は 一人でも感染者がいればアウトだろう。まあ諦めよう。

しかし 説明なしの16,000円の参加費全額没収は納得できない。数年前 台風直撃により横浜マラソンが大会の前日昼過ぎに突然中止決定されたことがあった。その時も 翌年の参加はOKだったが 参加費用は別途に払わなければならなかった。これと同様の処置と言えば それまでだが 今回は若干内容が異なる。

東京マラソンはエリートランナー参加だけではあるものの 開催される。一般ランナーの参加はダメだが マラソン大会は開催されるのだ。つまり このエリート参加だけの東京マラソンの実施費用を 参加拒否された一般ランナーの参加費で穴埋めしようということの是非だ。

もし参加費用を返還しないのであれば 少なくとも 東京都は東京マラソンの予算・収入費用状況をつぶさに公表し 一般ランナーの納得を得るべきだ。一説によると10数億円と言われるスポンサー収入はどうなるのか 今回のエリートランナーだけで開催する費用は完全中止の場合の費用と比べてどう違うのか。

ちなみに今日現在 中止となった一般ランナーへの詳細説明は一切ない。今のままでは 中止になった一般ランナーの参加費用はすべてオリンピック・ランナー選出のための費用に充当されるように見える。これは納得できない。

2020年1月 厚底マラソンシューズ

厚底マラソンシューズ禁止の可能性が世界陸連で討議されている。どうも ナイキは世界陸連から嫌われているらしい。

現在 話題になっているナイキの厚底シューズは 「ズームXヴェイパーフライネクスト%(通称ヴェイパーネクスト)」というもので 19年夏に売り出された。18年に売り出された厚底初期モデル「ヴェイパーフライ4%」のバージョンアップ版だ。ヴェイパーネクストでは初期モデルにあった癖が是正され 一般ランナーにも使えるようになっているという。その結果 品薄解消とともに プロのみならず一般人にも大人気となったようだ。

そもそも トップランナーは皆フォアフット着地(足の指付け根で着地)するので 本来はかかと部は薄い底で十分なのだ。昔読んだ記事では かつてのマラソン・メダリスト君原選手は 不要なかかと部分の靴底を自分で削って靴を軽くしたという。それではなぜ厚底なのか?

厚底シューズは着地時の反発力を利用するために開発されたものだ。そのために反発力の強いカーボンファイバー製のプレートを靴底内部に組み込んでいる。その上で 反発力を効かせるために たとえフォアフット着地のプロランナーでも着地時にかかとが地面に着くようにかかと部を厚底にしているのだ。したがって 厚底シューズというよりも「かかと厚底シューズ」というのが正しいと思う。このかかと靴底の厚さと反発力の関係はかなり複雑なものだろうと考えるが いずれにせよ発想そのものは革新的だ。

そして この革新の発想を実現可能にしたのが 軽い素材の開発だ。君原選手がかかとの底を自分で削ったように 従来のイメージは「厚底=重い」だった。ちなみに私が新しいランニングシューズを購入する時には必ず重さを計っている。それくらい気になる。しかしナイキの厚底シューズは180~190g。厚底でありながら 200g未満というプロランナーにとっての必須条件を満たすことに成功している。(参考に私が今履いているマラソン用シューズは225g。)ナイキは 反発プレートを挟むフォーム材にズームXという新素材を開発し アッパー(靴の表面)も従来の繊維ではなく 透けるような新素材になっている。アッパー素材を見ると軽量化努力の成果がにじみ出ている。

もちろんデメリットもある。価格と耐久性だ。現状の価格は約3万円。これは許せる範囲かもしれないが 軽くするために素材の耐久性を犠牲にしている。一説には400キロが寿命と言うが おそらく話半分として 200キロ程度ではないか。私のような素人で着地がアンバランスな場合 恐らくフルマラソンは3回と持たないだろう。すぐに底の一部がすり減りそうな気がする。大迫選手も 試合ではヴェイパーネクストを履くが 練習では普通の靴だという。

さて 問題を抱えながらも これだけの革新的な商品。なぜ使用禁止の動きがあるのだろうか。反発力がシューズ機能を超えているという正論も分からないではないが それを言えば 短距離のスパイクだって同じ気がする。棒高跳びのポールだって テニスのラケットだって同じだろう。今一つ 説得力がない。

もしかしてナイキの一社独占を危惧しているのだろうか。それはあり得る。しかし ネットビジネスならまだしも 通常は こうした革新的な商品が生まれた後は熾烈な開発競争が生まれ 必ずや近いうちに独占体制は崩れることになる。これが世の常だ。ランニングシューズが例外となる理由は考えられない。

使用中止議論に若干の賛成票を投じるとすれば 私の場合 理由は一つだけ。実はナイキの厚底シューズは中高生競技者のあこがれの的にもなっている。確実にタイムが縮むのだから やむを得ない。一方で この3万円のシューズを実際に購入するのは親かじジジババとなる。年に2足で6万円。これは痛い。親としては「金で記録を買うようなシューズ」は使用禁止になって欲しいと考えても不思議ではない。

しかし 私は今のナイキ独占が長く続くとは全く思わない。競争が発生すれば 耐久性も増し 価格も安い新商品が登場するに違いない。実際に ミズノの今春発表の新シューズは 厚底ではないが すでに反発素材が組み入れられている。箱根駅伝7区間の区間新記録のうち6つはナイキシューズだったが 1つはミズノの反発素材を組み込んだプロトタイプのシューズだった。

さて 3月1日の東京マラソン。日本でもっとも好記録が出るレースだ。設楽選手がオリンピックに出るためにはこの東京マラソンで日本記録を出すしかない。一方で 設楽選手も大迫選手も日本記録を更新したのはナイキの厚底シューズ。もし 東京マラソンで厚底使用禁止になったら その時点で設楽選手のオリンピック出場の目はほぼ消えてしまう。公平を期すならば 少なくとも東京マラソンは厚底シューズOKであってほしい。

最後に 個人的には 昨年 ナイキの厚底が話題になった時(ヴェイパーネクスト発売前)その市民ランナー版の「ナイキズームフライフライニット」という厚底を18,000円で購入した。ハーフマラソンでは好成績を収めたものの フルマラソンでは効果がでなかった。255gという若干の重さが疲れが出る後半に影響した気がした。ちなみに 今 このモデルは「ズームフライ3」という練習モデル(275g)に置き換わってしまった。記録を出したければ3万円出してヴェイパーネクストを買えと言う話かもしれない。

結局 東京マラソンに向け 先週 私が購入したのはミズノの反発素材の入った今月発売の最新モデル(12,000円)だ。ケチった? いや ミズノや他日本メーカーを応援しているのだ。負けるなミズノ!

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