過去のひと言
2025年5月 研修雑感
企業向けの研修を始めてすでに33年目に突入した。現在 毎年 約20社を対象に研修を実施している。毎年 2社くらいの新規顧客が加わり 2社くらいの顧客が一段落で休憩・終了していく。1回限りの顧客はめったにいない。つまり 20社のうちの18社は継続実施。リピート率は90%になる。従業員数百人の中堅企業でも最低2、3回は継続実施いただいている。
一番長く継続実施頂いている顧客は三井住友ファイナンシャルグループ(グループ各社から参加)だ。三井住友銀行単独で実施している時から数えると23年目に入っている。プルデンシャル生命グループ、NTTデータ経営研究所、九州アジア経営塾(九州の企業リーダーを育てる非営利団体)なども約20年継続している。ライオン、商船三井、住友林業なども10年以上継続実施頂いている。
というわけで 今はほとんど営業・宣伝活動は行っていない。実施している研修に全力で取り組むこと自体が営業になっている。なにせ 新規顧客の1/3は私の研修を受講した知人・社員からの紹介で 1/3は以前私の研修を受けた人が転職先企業で実施したいとの問い合わせだ。残りの1/3が小著を読んでの問い合わせとなっている。
ただし 20数年前 この研修活動をメインにしようと活動し始めた当初は大変だった。それまで主流にしていた経営コンサルティング事業を研修事業に切り替えようとした時期だ。何せこのような「考える技術・書く技術」の研修自体が世の中に存在しなかった時代である。いろんなツテを頼りに 企業の人材育成担当者にPRして回った。
私の説明を聞いてお試しにこの研修をやってみようという企業は皆人材育成に積極的で はっきり言って成長企業ばかりだ。先に名前を挙げた顧客企業は皆そうした企業である。しかし当時 企業の人材育成部署は千差万別だった。つまり 企業によって人材育成への関心や力の入れ方が千差万別だった。
人材育成に力の入っていない企業(すなわち 将来の成長が疑わしい企業)は人材育成部署の担当者と面談すればすぐに分かる。今はそういう企業は少ないだろうが 人材育成部署がいわゆる窓際的な人の溜まり場になっている企業もあれば 既存の研修プログラムを何の見直しもせずにそのまま引き継いているだけの(新たなリスクや面倒は犯したくない)企業もあれば 儲けた時にだけ研修にお金を使う(つまり 研修予算が儲けに左右される)企業もある。20年前 担当者と話をして こりゃひどいと思った企業が何社もあった。その筆頭が20年前のソニーとキリンビールである。
面談内容は覚えていないが ソニーの人材育成担当者と会ったとき これがあのソニーかと驚いたことを覚えている。まったく新規の話に関心を示さなかった。キリンビールも同じ。今でも覚えているが いかにも窓際的な副部長に「そんな研修は今までやったことがないので実施は無理です」と言われてしまった。帰り際 同席した若手社員から「申し訳ありませんでした」と謝られてしまったことを覚えている。
なぜ企業名を出すのか。それは 日経新聞の「私の履歴書」に ソニーの平井元社長とキリンホールディングの磯崎元社長が相次いで登場したからである。この二方の共通点は企業内で傍流の道を歩んでトップになり 低迷する経営を立て直したという点だ。平井氏は電子機器ではなく ゲーム出身。磯崎氏はビールではなく ホテル業出身。
20年前 私が人材育成担当者とお会いしたときは両社ともに最悪の時期だったらしい。はっきり言って当時 ソニーもキリンビールも将来はないだろうと思っていた。しかし この2社は何とか最悪期を抜け出したらしい。ともに傍流の改革者に恵まれたからだ。しかし 低迷脱出に10年以上かかっている。もちろん 面談してひどいと思った有名大企業の中には 改革者に恵まれず 残念な状況に陥った企業も複数ある。
要は 人材育成部署を見れば企業の現状と未来が見える。はっきり言って私の現在の研修顧客リストを見れば皆成長企業だ。しかし ひどいと思われる企業でも ソニーやキリンビールのように改革者の出現により起死回生する企業もある。ただし 10年はかかる。
2025年4月 トラック業界チラ見
最近 トラック業界の再編に関する記事に目が留まった。乗用車業界では日産のみっともない話が目を引くが よく見るとトラック業界はよほど戦略的にしかもスピーディに事が進んでいるようだ。
私事で恐縮ながら 1985年暮れ 経営コンサルタントになって最初に任された仕事がトラックのアジア市場戦略調査だった。当時は ダイムラーがダイムラー・ベンツと呼ばれ 商用車部門を別会社化する以前だった。その時 ダイムラーはインドネシアをはじめとする東南アジア市場で日本のトラック・メーカー とりわけ三菱に押され気味だった。当時 ダイムラーのトラック責任者と話したところ なぜ三菱があの価格でトラックを作れるのか全く分からないと嘆いていた。それから20年後 2005年にダイムラーが三菱ふそうを三菱自動車から買収することになる。20年かけた執念とも言えるだろう。
ダイムラーが三菱ふそうを手に入れた翌年 2006年 日産は日産ディーゼルの株式をボルボに売却。2010年社名をUDトラックスに変更した。この時点で国内商用車シェアは 1位いすず、2位日野、3位三菱ふそう、4位UDトラックスだった。ボルボも世界トップ10に入るトラック・メーカーだが 国内的にみると いすず/日野/ 三菱ふそう/ UD(旧日産ディーゼル)という4社体制に変更はない。しかし冷静に見て 日本に4社もトラック・メーカーは要らないだろう。そして当然の流れのように 2021年 いすずがUDトラックスを買収。これで商用車は3社体制になった。
そしてつい最近 日野と三菱ふそうが対等統合し 別途にダイムラートラックとトヨタが対等出資する持ち株会社を設立。その持ち株会社が日野と三菱ふそうの統合新会社を保有するという発表があった。ちなみにダイムラーは三菱ふそうの9割近くを保有する親会社で トヨタは日野の過半数を保有している。この統合の話は2023年には合意していたことのだが 日野の検査データ不正問題の処理のために実施が伸ばし伸ばしになっていた。
これで国内のトラック・メーカーは実質いすずとトヨタ・ダイムラーの2グループ体制になった。一方 世界的にみると もともとダイムラーは実質世界トップのトラック・メーカーだし いすずや日野も世界トップ5、6に位置づけられるメーカーだ。なぜここにきて そんなに統合を急ぐ必要があるのか。
理由は中国だ。世界の商用車トップ10には 第1位の東風汽車をはじめ 中国重型 中国第一汽車 陜西汽車など4社が名前を連ねている。そして 中国メーカーのトラック・バス分野での自動運転化・水素燃料化の動きはとてつもなく早い。もっと熾烈な中国vsユーロ・ジャパン連合の戦いが進展するに違いない。
>> 過去のひと言一覧