2017年5月 テスラ快走


アメリカのEVメーカー テスラ(Tesla)の快進撃が続いている。4月には 時価総額で 日産 フォード GMを抜いた。2016年通期で7億7千万ドルの赤字にもかかわらずだ。

テスラの第一号車は2008年のロードスター。電気自動車初のスポーツカーとして評判を呼んだ。10数万ドルの車だったが あっという間に完売。とはいっても年間販売台数が数百台の話しで 全体として見ればニッチの世界 物好きなお金持ちの世界の話しと見られていた。しかも車体ベースはロータスのものだったので 完全に自前だったわけではない。

ところが その後 モデルS(セダン) そして モデルX(SUV) と次々に新モデルを発表していった。これらは航続距離で450~570キロ。一回の充電・給油で走る距離は燃費の悪い大型アメ車(ガソリン車)よりもよい。しかもオートパイロット機能付きで、ソフトは自動で更新される。帰納だけではなく モデルXのガルウィングのドアなど実にクールなスタイルだ。ただし 値段的に言えばすべて10万ドルクラスであり 庶民にはなかなか手が出る代物ではなかった。ニッチとは言わないまでも 多くの人にとってはまだ高値の花だった。

ところが 昨年3月 ついにモデル3の予約販売が始まった。テスラ始まって以来 3万5千ドルの大衆モデルである。予約販売と言っても あくまでも予約の受付であり 納車は早くても1年半後 今年の後半になるらしい。しかも この予約には1000ドル(日本では15万円)の予約金が必要になる。キャンセルの場合 全額返金の規定にはなっているものの 1千億円近い赤字を出している会社のクルマで しかも1年半後の納車である。

実はこれが大人気で あっという間に40万人近い予約が集まったという。予約金だけで4億ドルということになる。この結果を見て日本の自動車メーカーはようやく「何かが違う」ということに気づいたらしい。

テスラの創立者は イーロン・マスク。ちなみに 彼はトランプ大統領と同じく ペンシルベニア大学ウォートンスクールで学士号を取得している。まったくの余談だが 私もこのウォートンスクールで修士を取得しました。とはいえ 彼は根っからの起業家で 起業したIT会社の売却で数億ドルを手に入れた後 決済会社ペイパルを立ち上げ その後 ロケット開発会社 スペースXを共同で立ち上げ テスラモーターズに投資することになった。

スペースX社は 通常は捨ててしまう第一弾の燃料ロケット部分を回収することに成功したロケット開発企業である。お役目を果たしたロケットが誘導され回収船の上に無事着陸する様子は全世界で放映された。本当に驚くばかりで 現実とは思えなかった。これで何十億円という費用の節約になるらしく 今後のロケットは皆こうなるだろうと言われている。

本題にもどって なぜテスラがこれほど人気があるのか その理由にはこれらすべてが絡んでいる。つまり イーロン・マスクが“実現”してきたアメリカン・ドリームである。皆の目をくぎ付けにしたロケット自動回収の実現やテスラの自動運転機能・・・。テスラを買おうというモチベーションの半分は このイーロン・マスクの未来を実現する力への共感や応援だと思う。

残りの半分は テスラそのもののクルマとしての魅力だ。テスラはエコロジーだけを売りにしてきた今迄のEVとはまったく違うのだ。モーターの持つトルク性能を活かした走り オートパイロット機能はあたりまえ しかも 35,000ドルのモデル3でさえ345キロの航続距離(日産リーフで280キロ)。

テスラのスーパーチャージャー(急速充電設備)が日本ではまだ普及していないのが残念だが もし私がカリフォルニアに住んでいれば あるいは日本でも家の近くにスーパーチャージャーがあれば 次のクルマは100% テスラだろう。

ところで トヨタの燃料電池車ミライはどうなったのだろうか。2014年末に販売して未だにこのモデルだけというのはどういうことなのだろうか。この実用性に欠ける4人乗りモデルの売りは“燃料電池”というだけだ。残念なことに“クルマ”としての魅力は聞こえてこない。最近ようやく トヨタとホンダが手を組み 11社で水素ステーション開発の共同会社を設立というニュースを新聞で見たが よく読むと年内に新会社を設立予定とある。なんと半年以上先の話しである。アメリカ流に言えば カレンダーを見て仕事をしているトヨタと時計を見て仕事をしているテスラの違いだろうか。トヨタのベンチャー精神はどこにいったのだろうか。

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