2018年2月 「陸王」ランニングシューズの奥深さ
若干古くて恐縮ですが マラソンが趣味の私にとって 昨年大ヒットしたテレビ番組「陸王」は見逃せない面白さだった。老舗の足袋屋さんが会社の起死回生を期して足袋型のマラソンシューズの開発に乗り出すという話だ。番組名の「陸王」はその靴の名前。そもそも ストックホルムオリンピック(1912年)のマラソンに出場した金栗選手 ベルリンオリンピック(1936年)のマラソンで金メダルを獲得した孫選手は足袋でレースを走っている。アシックスが1953年に発売した最初のマラソンシューズも座敷足袋を改良した「マラソン足袋」だった。というわけで 足袋型のマラソンシューズという発想は決して珍しいものではない。
12月の「陸王」の最終回を見て 私もこの足袋型シューズを試したくなった。テレビではミズノが協力しており ミズノからは放映終了とともに「陸王記念モデル」(足袋型マラソンシューズ)が限定発売されることになった。価格は6万円。これはちょっと手が出る値段ではない。調べてみると 別の2社から足袋型のランニングシューズが発売されていることが分かった。この2社は「陸王」の撮影にも協力している。陸王の影響で品薄状態が続く中 1月初めに その内の一社の足袋型ランニングシューズを手に入れた。
ちなみに 私は今まで10年間 ハーフやフルマラソンではずっとアシックスの靴(主にゲルフェザー)を愛用してきた。このブランドはマラソン4時間レベルの中級者ランナーを対象にした評判の高いモデルだ。そして今回 この足袋型モデルでお試しランしてみて 改めてシューズ開発の奥深さを知ることになった。
「陸王」シューズの最大の売りは親指と他の指が分かれた足袋型の形だ。確かに 履いてみると 普通の靴型よりは足袋型の方が指にしっくりと来る。小指を含めて全部の指を使って走る感覚が実感できる。突き詰めれば 足袋型よりは五本指型の靴の方がもっとしっくりくるに違いない。実際 五本指のランニングシューズもあって 高い評判を得ているらしい。理想はやはり人間の足そのままの形なのだろう。
テレビでは 「陸王」開発の最大の技術ポイントは靴底のソールに「シルクレイ」という新素材(架空)を採用したことだった。これはまさにマラソンシューズ最大の開発ポイントがソールであることを言い当てていた。マラソンシューズのソールは弾力性と強度と軽さを兼ね備えていなければならない。しかもこれは材料だけではなく構造の問題でもある。実際に 私が従来履いているアシックスの靴はソールに「ゲル」と呼ばれる特殊素材を採用しているのがウリだった。残念ながら 購入した足袋型シューズのソールは軽いのだが固すぎて柔軟性に欠けていた。やはりマラソンシューズはソールが第一だった。
「陸王」開発の第二の技術ポイントは繊維素材。テレビでは やっと見つけた繊維メーカーをライバル会社に横取りされ 必死になって新たなメーカーを探すというという山場がある。実は テレビを見ていて なぜそんなに繊維が重要なのかよくわからなかった。購入した足袋型シューズを履いてみると 足袋型であるがゆえに 靴の中で指がよく動いてくれる。これは喜ばしいことなのだが そのために靴の繊維が固いと指が痛くなるのだ。靴型もそうだが 足袋型のランニングシューズはより一層 繊維に柔軟性が求められる。普段当たり前だろうと思ってアシックスを履いていたが こうして違う型のシューズを履いてみると アシックスの繊維素材の柔軟性がよく分かった。
結論から言えば テレビの「陸王」は実によくできていた。確かに目を引くのは足袋型の形だが 開発のポイントがソール そして 繊維であることはその通りだった。私の購入した足袋型ランニングシューズは残念ながらこの二つの開発ポイントで私のニーズを満たしてくれなかった。長年かけて培ったアシックスやミズノのノウハウとはこの辺にあるのだろう。なかなかに奥が深い。アシックスやミズノの廉価版「陸王」の登場に期待したい。