2018年3月 流氷そして雪まつり


先月の初め 北海道に旅行してきた。実は数年前 流氷を見ようと 流氷接岸時期を目指して冬の知床を訪れたことがある。その日は風雪が厳しく 出発日の札幌行きはすべて運休。たまたま釧路行きだった我々の飛行機は何とか運休を免れたものの 空港に着くと寒風の地吹雪だった。空からではなく地から粉雪が舞い上がり行く手をかすませる。初めての冬の道東 北の国の飾りのない出迎えだった。ただ その強い風のおかげで知床到着の夜 その年初めて 流氷が接岸することになる。翌朝 知床の海に眼をやると 海と陸の境を消す一面の大雪原が広がっていた。

一方 強風は一日中一晩中 止むことがなかった。知床のゴジラ岩の前で予定されていた夜のオーロラ祭りも 翌朝予定していた流氷の上を歩く「流氷ウォーク・ツアー」もすべて中止。楽しみにしていた網走出発の「観光砕氷船オーロラ号」まで出港中止になってしまった。

そして今回 心残りだった流氷砕氷船に再トライすることにした。考えてみれば当たり前だが 流氷がしっかりと接岸すればいかに砕氷船といえども出港に支障を来すに違いない。つまり流氷接岸と砕氷船出航はもしかすると相いれないものかもしれない。というわけで 今年は流氷接岸時期をはずし ちょっと早めに札幌の雪まつりにあわせて紋別を訪れることにした。結果としてこのタイミングでの流氷見物は大正解だった。

砕氷船ガリンコ号で10分も沖に出ると氷の海原が一面に広がる。さすがに甲板は寒い。万が一海に落ちると5分と生きていけないだろう。ふとテレビの「北の国から」でトド撃ちに出かけ遭難したトド(唐十郎)が流氷の上を渡り歩くシーンを思い出した。テレビの世界とは言え役者は大変だ。夜の羅臼の流氷シーンなのでマイナス15度以下に違いない。さて 船は小刻みな後進・前進を繰り返しながら氷を砕いて進んでいく。この時のガリガリとなる音と振動とちょっとした船体の揺れが我々を喜ばせてくれる。ガリンコ号のウリだ。

寒すぎるのか沖の空には海鳥もいない。流氷が海を覆う状況では餌も見つからないのだろう。しかし目を凝らすと流氷のところどころにオジロワシが見える。流氷の大きな塊の上でまるで孤高の哲学者のように周りを睥睨している。船が近づくと 氷の上にたたずむ哲学者は突然大きなドラゴンにでも変身するかのように 体の三倍はあろうかと思われる翼を広げ飛び立っていく。北極圏の氷河と比べればスケールの小さい話だろうが この感動が東京から2、3時間で経験できるのだから 日本も広い。 

流氷を見た後 札幌に戻り 夜の雪祭りを楽しんだ。昼でもマイナス10度の紋別と比べると 札幌は暖かい。もしかするとそれは気温だけの差ではないのかもしれない。音までも吸い込んでしまうような自然の偉大さを見せつける流氷に対し 札幌の雪まつりは生命の音を外に向かって吐き出す動の祭りだ。大通公園の雪像はライトアップで輝き ステージには若いアーティストたちの声が響き渡り 雪像に映るプロジェクションマッピングは見る人の目から雪を忘れさせる。雪像の脇を埋め尽くす屋台は暖を求める観光客でごった返している。

しかし札幌雪祭りの私のお薦めはテレビ塔だ。夜のテレビ塔の展望階に登ると大通公園に立ち並ぶ雪像のライトアップが一望できる。雪をかぶった都会のビルの中に 声を無くした光の群れが整然と浮かび上がる。光と音の祭典を消音モードで見る感じだ。雲の上から人間の祭りを眺め 悦に入っている神さまもこんな気分かもしれない。札幌の雪まつりを見に行くならば 夜に限る。そして夜のテレビ塔から見る消音モードの夜景は一見の価値がある。

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