2018年8月 提案力の強化


最近 某大企業の開発部から「提案力強化」のご相談があった。実は 提案力強化というのはまさに今日的テーマで よく出くわすテーマだ。数十年前の大量生産・大量販売の時代ならともかく 今の時代 完成した商品を売るだけの営業などほとんど存在しない。例えば 小売店を経由して消費者に物を売る消費財メーカーの場合 たとえ一流メーカーであったとしても それなりの商品を開発し それなりの広告宣伝を打つだけでは限界がある。ましてや 普通のメーカーではまともに仕入れてくれることもない。「どうやれば売れるか」・・・売り方を小売店に提案し こうやれば売れると説得しなければ 話が進まないのだ。これが消費財メーカーの現実である。

しかも 今のB2Bビジネスでは 単なる商品(ハード)販売ではなく サービスや委託業務などを提供するソフト・ビジネスが主流となっている。このようなビジネスにとって提案力は生命線そのものである。

さて「提案力強化」と聞いて 皆さんは具体的に何の強化を想像するだろうか?先の某企業から舞い込んだ「提案力強化」のご相談は 私がやっている研修(考える技術・書く技術)の延長線上で登場したものだ。「考える技術・書く技術」→「説得力のある提案書作成」→「提案力強化」という流れだ。これは間違いではない。しかし 誤解を招きがちと言えるかもしれない。

私の教えている「考える技術・書く技術」の教材は「読み手の理解」から始まる。そして最後に行きつくのもここだ。なぜなら読み手の理解こそがライティングでもっとも重要なことだからだ。ライティングの半分は読み手の理解にあると言ってよい。提案書もまったく同じ。一番重要なのは顧客の理解なのだ。これがうまくできない限り 説得力のある提案書も書けなければ 提案能力の強化も難しい。

問題は 今日の複雑なビジネスでは 一人で提案書を作成するなどほとんど不可能なことにある。冒頭のご相談企業の場合もそうだったのだが 提案書の作成には複数の部署が関与していた。開発部が中心になり 製造部やロジスティック部や営業部が全員一体となって提案書作成に参加していたのだ。当然、営業だけが顧客と話をしていたのでは その真意は他の部署には伝わらない。しかし 提案書の中心になる開発部の中には顧客対応窓口はないし 決まったルールもガイドラインもない。顧客との面談に開発部がどう関与するかは人任せだ。そう考えると 誰がどうやって顧客理解を深め 関係者間でその理解を共有するか・・・それらは組織の在り方 顧客対応の仕組みにまでさかのぼることになる。

「提案能力の強化」の半分は「顧客を理解する能力の強化」。すなわち 組織としてどうやれば顧客をより深く理解し その理解を共有できるかだ。残念だが これを避けての提案能力強化は難しい。提案書に限らないが ライティングとは実に奥が深い。

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