2018年10月 なぜSomaはセイコーの名を捨てたのか?
1年前にランニング・ウォッチを購入した。走るときにしか使わないので とにかくシンプルで使いやすく見やすいというのが条件だ。機能的には50回分のラップタイムさえ測れればよい。余計な機能はいらない。できれば頑丈な信頼性の高いメーカー製がよい。
最終的に選んだのは “Soma”のRunONE100SLというモデルだ。ヨドバシカメラで手にとって 使い心地を確かめた上で決めた。とても気に入っている。当時 値段は8千円くらいだった。
Somaってどこのメーカー?殆どの方はご存じないと思う。私も最初は知らなかった。実は Somaはセイコーが出しているランニング専用ウォッチだ。正確には セイコーの時計製造会社であるセイコーインスツルが出しているブランドをセイコーが販売しているらしい。機能別に入門用と一般用の2つのタイプがある。各タイプにラージとミディアムの2つのサイズがあり それぞれに数種類のカラーが準備されている。必要にして十分な品ぞろえだ。
しかしなぜセイコーの名前を前面に押し出さなかったのだろうか。実際に時計のどこにもSeikoという名前は記されていない。ランナーとしてみると 汗まみれの中で使うものなので壊れるのが心配だ。やはりどのメーカーで作った時計なのかは気になる。私見だが Somaがセイコー製でなくても 私はこれを買っただろうか。正直疑問の残るところだ。逆に言えば セイコーSomaという名前で セイコー製を前面に打ち出せば あと3割くらいの売り上げアップにはつながると思うのだが・・・。
実は セイコーには ダイビングやトレッキングなどのスポーツ・アウトドアに特化した”プロスペックス”というモデルがある。プロスペックスは元来は高機能を志向したモデルで 高いものは40万円台のダイバーウォッチもある。そして このプロスペックス・モデルの中にスーパーランナーズというランニング・ウォッチがあるのだ。Somaが2009年に生まれた比較的新しいブランドであるのに対し スーパーランナーズは1995年に生まれた歴史のあるモデルだ。プロスペックスの他シリーズと同様に高機能がうたい文句だが 恐らく今の主流は1万円半ばから2万円台の製品のようだ。
これは想像の範囲だが ランニングブームが生まれる中 セイコーは普及型ランニング・ウォッチ投入の必要を感じたに違いない。しかし 当時からその主流は機能を絞り込んだ1万円以下のモデルだ。結局 セイコーやプロスペックスのブランド・イメージを損なわないように またプロスペックスとカニバリゼーションを起こさないように別ブランドで販売することにしたのだろう。この安易な決定が10年後の今も足を引っ張っているように見える。
今現在 プロスペックス・スーパーランナーズの廉価モデルはアマゾンで1万円を切る価格で売られている。これはおそらくはプロスペックス・モデルの最安値だ。Somaもアマゾンで6千円以下で売られてはいる。しかし セイコーがSomaを別ブランド化した意図はあまり上手くいかなかったように思う。どうやら ランニング・ウォッチに対するブランド戦略を見誤ったとのではないだろうか。こうしたランニング・ウォッチへの取り組みのあいまいさは結果としてGPS機能などのついた高機能ランニング・ウォッチでもセイコーが後れを取る結果を招いているようだ。
ユーザーの観点から言えば 機能と用途を絞り込んだSomaは実に素晴らしいモデルだ。私がブランド責任者ならば 例えば プロスペックスからランニング・ウォッチを切り離し セイコーSomaというランニング専門モデルを作り 機能を絞り込んだ基礎モデルから徐々にGPS機能や心配測定機能など高機能化したモデルまでを同じモデル名で構築するだろう。
Somaだけではない。はっきり言って セイコーのブランド戦略は全体的に今一つ分かりにくい。似たような時計があまりに多すぎる。