2018年10月その2 なぜグランドセイコーはセイコーの名を捨てなかったのか?


前回「なぜSomaはセイコーの名前を捨てたのか?」の最後に セイコーのブランド戦略は理解しづらいと書いた。その最たるものがグランドセイコーだと思う。

セイコーは昨年のバーゼル時計展示会でグランドセイコーの独立ブランド化を発表した。これが分からない。マーケターと称する評論家はこぞって グランドセイコーはレクサスと並ぶ高級ブランドの成功例になるかもしれないという提灯記事を書きまくった。しかしよく読むと 「成功する」と断定的に書いている記事はなく すべての記事が「・・・成功する可能性がある」とか「・・・成功するかもしれない」とか「成功すれば・・・」という言葉で飾っている。なんと無責任なことか。

私には分からない。なぜ「グランドセイコー」という名前が「セイコー」から独立したブランドだと言えるのだろうか?全然独立していないではないか?今年のバーゼルの展示会でも 「グランドセイコー」という独立カウンターはなかったようだし 独立ブランド化宣言から一年経ってもグランドセイコーに特化した販売店はない。これではレクサスに失礼だ。

ブランドとは差別化だ。ブランド戦略が成功するためには 商品はもちろんのこと 開発・製造・販売すべての要素で差別化することが必要だ。マーケティングの初級者は皆4Pというマーケティング・ミックス(商品・サービスの提供者がコントロールできるマーケティング要素)を習う。Product(商品)、Price(価格)、Promotion(販促)、Place(流通)の4つだ。4Pで教えているのは マーケティング戦略を成功させるためには これらの4つの要素をすべて一つの戦略の下で統合しなければならないということだ。マーケティング戦略の肝と言える。

グランドセイコーのような高級ブランドの立ち上げでは マーケティング・ミックス全要素を一つのブランド戦略の方向の下に差別化しなければならない。逆に言えば それくらいの覚悟がなければ高級ブランドを成功させることはできない。レクサスをみれば一目瞭然だ。4つのPが見事に差別化されている。その一方でレクサスがトヨタの商品であることを知らない者もいない。

もっと身近な例もある。1991年にP&Gがマックスファクター化粧品を買収し上手くいっていなかった頃の話。P&G日本が打ち出した起死回生の一手は当時マックスファクター日本の一商品であった高級化粧品SK-IIを独立ブランド化することだった。SK-IIをマックスファクター・ブランドから切り離し 独自流通を整え 百貨店のカウンターを独自カウンターにし 美容部員を別組織化し SK-II美容部員のユニフォームも変え カウンターからユニフォームまですべての色をSK-II色であるバーガンディに統一したのだ。今やSK-IIは女性なら誰もが知る高級基礎化粧品だが それがP&Gの製品であること もともとマックスファクターの製品だったことを知る人はほとんどいない。これがブランドの独立化だ。ちなみにP&GはSK-IIを独立ブランド化した後 残りのマックスファクターを2015年に売却している。

グランドセイコーに話を戻すと こうしたブランド独立化に必要な覚悟のなさが歯がゆくてしようがない。今のやり方でも今迄販売に力をいれていなかったのだからある程度は売れるだろう。しかし このやり方では「成功」と言えるような結果は残せないと私は思う。

セイコーは覚悟を決めるべきだ。本当にグランドセイコーを成功させたいならばセイコーの名前を捨てる覚悟をもってマーケティングに臨むべきだ。ちなみに私の愛用する時計はセイコーのアストロンである。セイコー愛用者だからこその意見と受け取ってほしい。

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