2019年2月 ラブ・ネバー・ダイ


最近 時間的な余裕がでてきたこともあり 月に二度近い頻度で観劇やコンサートに出かけている。観劇的には 歌舞伎 ストレートプレイ 文楽 ミュージカル など分野は問わない。今月は横内正の「マクベス」(シェークスピア)とミュージカル「ラブ・ネバー・ダイ」を見に行った。やはりシェークスピアは面白い。シェークスピアを見に行くと 大学時代の英語の先生 小田島雄志(当時助教授)を思い出す。小田島雄志と言えばシェークスピア翻訳の権威中の権威。シェークスピアの劇を見ると 本を読むだけでは分からない凄さを実感できる。小田島先生がシェークスピアに一生をかけて取り組んだ理由がよくわかる。

ミュージカル「ラブ・ネバー・ダイ(Love Never Dies)」は数年前から日本で公開しているが 私は初めて。演者は「市村正親・濱田めぐみ」と「石丸幹二・平原綾香」のダブルキャスト。どちらも豪華キャストだが 私が選んだのは「石丸幹二・平原綾香」。お目当ては「あーや(平原綾香)」だ。コンサートには行ったことがあるが ミュージカルを見るのは初めて。

「ラブ・ネバー・ダイ」は「オペラ座の怪人」の10年後をテーマにした続編。「オペラ座の怪人」は劇団四季を2度見に行ったことがある。ラブストーリーとしてはミュージカル最高傑作だと思っていた。最初に見た時のシャンデリアが落ちる場面や運河を船で渡るシーンは決して忘れることができない。ただ今回見た「ラブ・ネバー・ダイ」はこの「オペラ座の怪人」を超えていた。それくらいに素晴らしいミュージカルだった。

石丸幹二ももちろん素晴らしかったが 平原綾香は期待通りに素晴らしかった。平原綾香演じるクリスティーヌは怪人のお陰でデビューを果たすオペラ座の歌姫。平原綾香はもちろん本物の歌手だが 歌手役を演じる彼女はなぜか実に最高だ。根っからの表現者に違いない。昔 緒形拳の遺作となった「風のガーデン」(フジテレビ)で中井貴一の恋人の歌手役で歌っていたシーンを思い出した。

ミュージカルはやはり華やかなセット展開が売り。もともとミュージカルを元に書かれた脚本だけにこの辺は実にすばらしい。歌姫に相応しい〝豪華さ“や怪人に相応しい〝おどろおどろしさ“ そして愛の世界の〝哀愁〟が見事にセットで表現されている。いきなりサーカスの劇場シーンから始まるのには驚かされるし きびきびとしたシーンやセットの展開にはまったく無駄がない。特に驚かされたセットは ガラスと鏡面でできた角柱の中でサーカス演者が体をくねらせて踊るシーン。 「黒蜥蜴」を凌ぐほどにおどろおどろしく その斬新な表現は目をくぎ付けにさせる。落ちてくるシャンデリアこそ登場しないが 大がかりでかつ細かい部分にも気を使ったセットはオリジナル譲り。セットが大きすぎるために地方公演ができないという説明には 思わず東京に住むありがたさを感じてしまった。

しかし演劇もミュージカルも出来映えを決めるのは何と言っても脚本と演出。「ラブ・ネバー・ダイ」の脚本と音楽は「オペラ座の怪人」「キャッツ」「エビータ」などミュージカル界の大御所アンドリュー・ロイド・ウェバー。脚本の補佐には 「ジャッカルの日」のフレデリック・フォーサイスまで加わっている。

浅利慶太と劇団四季のお陰で 日本にも多くのミュージカル役者が育ってきた。石丸幹二も市村正親も濱田めぐみも皆 劇団四季出身者だ。これから日本のミュージカル界でも ブロードウェイに負けない脚本家・作曲家などのクリエイティブ・スタッフが育つことを楽しみにしたい。

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