2019年4月 新型クラウンの挑戦


前々回だったか 2018年ヒット商品についてこのコラムで語った時 「新型クラウンは2018年度の成功を今後も維持できるだろうか」という疑問を投げかけた。

我ながら面白いテーマだと思い 4月の某コンサルティング会社向けの“マーケティング戦略研修”の課題の一つにこれを付け加えることにした。まずは課題作成のために 新型クラウンや競合するレクサスの車種を詳しく比較してみた。コラムを書いた時には 新型クラウンに対しやや否定的な見方をしていた。しかし よくよく見ると 新型クラウンの開発がなかなかに考えられた戦略に基づいていることが見て取れる。

クラウンは1955年に発売開始以来 長年にわたりトヨタの最高級車種として位置づけられてきた。1983年から用いられたCMキャッチコピー「いつかはクラウン」は知らない人はいないほど有名となり それなりに出世を遂げたサラリーマンにとって クラウンは成功の証といえるような車種になった。

その一方で トヨタは 1989年に米国市場で そして2005年に日本市場で “レクサス”ブランドを投入する。レクサスは トヨタ・ブランドとは別の販売組織で 別の生産ラインで “トヨタ”とはまったく異なるプレミアム・ブランドとして売り込むことになった。会社としては 大衆ブランドとしてのトヨタに対し レクサスはメルセデスに負けない高級車種としての位置づけだ。悪く言えば 「お金に余裕がある人はトヨタではなくレクサスを買え」と言っているようなものだ。そして レクサス的に見ればこのやり方はかなりの成功を収めることになった。

この状況の中 クラウンの開発責任者は 今までトヨタ・ブランドの最高級車種として位置づけてきた“クラウン”をどうやって誰に向けて売ればよいのかという課題に直面することになる。そして彼らが出した解答が新型クラウンだった。

新型クラウンの素晴らしいところは レクサスGS/ESを明確な競合相手として認識している点だ。明らかに レクサスGS/ESの客を奪い取ることを念頭に開発している。まず 今まで マジェスタ/ロイヤル/アスリートにタイプ分けしていたモデルをクラウン一つにまとめなおし資源を集中することにした。

新型クラウン(ハイブリッド)には大きく 6気筒3.5Lと4気筒2.5Lの2つのタイプを揃えた。最大の競合相手は 同じく 6気筒ハイブリッドと4気筒ハイブリッドを持つレクサスGSだ。また4気筒ハイブリッドのレクサスESとも競合するだろう。ざっとだが 値段を見ると 新型クラウンはこれらレクサス競合車種と比べ 数十万円~100万円以上安い。かなり衝撃的な価格差だ。

ポイントは同じ機能の車だったら 客は“レクサス”というブランドにどのくらいのプレミアムを支払うかという問題だ。恐らく 新型クラウン開発陣はこれを市場調査したに違いない。上記の価格差は この問題に対するクラウン開発陣の答えを表している。

ちょっと待てよ。メルセデスなどのブランド指向の購入者に対し 本当に価値のある車を提案し受け入れられたのが レクサスだったはずだ。もしかすると 今 新型クラウン開発陣がやっているのは レクサスというブランド指向の購入者に対し 新型クラウンを通じて本当の価値を問いかけているのかもしれない。 レクサスGS/ESの国内販売責任者はこの状況を一過性と受けとめない方がよいだろう。

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