2020年1月 厚底マラソンシューズ


厚底マラソンシューズ禁止の可能性が世界陸連で討議されている。どうも ナイキは世界陸連から嫌われているらしい。

現在 話題になっているナイキの厚底シューズは 「ズームXヴェイパーフライネクスト%(通称ヴェイパーネクスト)」というもので 19年夏に売り出された。18年に売り出された厚底初期モデル「ヴェイパーフライ4%」のバージョンアップ版だ。ヴェイパーネクストでは初期モデルにあった癖が是正され 一般ランナーにも使えるようになっているという。その結果 品薄解消とともに プロのみならず一般人にも大人気となったようだ。

そもそも トップランナーは皆フォアフット着地(足の指付け根で着地)するので 本来はかかと部は薄い底で十分なのだ。昔読んだ記事では かつてのマラソン・メダリスト君原選手は 不要なかかと部分の靴底を自分で削って靴を軽くしたという。それではなぜ厚底なのか?

厚底シューズは着地時の反発力を利用するために開発されたものだ。そのために反発力の強いカーボンファイバー製のプレートを靴底内部に組み込んでいる。その上で 反発力を効かせるために たとえフォアフット着地のプロランナーでも着地時にかかとが地面に着くようにかかと部を厚底にしているのだ。したがって 厚底シューズというよりも「かかと厚底シューズ」というのが正しいと思う。このかかと靴底の厚さと反発力の関係はかなり複雑なものだろうと考えるが いずれにせよ発想そのものは革新的だ。

そして この革新の発想を実現可能にしたのが 軽い素材の開発だ。君原選手がかかとの底を自分で削ったように 従来のイメージは「厚底=重い」だった。ちなみに私が新しいランニングシューズを購入する時には必ず重さを計っている。それくらい気になる。しかしナイキの厚底シューズは180~190g。厚底でありながら 200g未満というプロランナーにとっての必須条件を満たすことに成功している。(参考に私が今履いているマラソン用シューズは225g。)ナイキは 反発プレートを挟むフォーム材にズームXという新素材を開発し アッパー(靴の表面)も従来の繊維ではなく 透けるような新素材になっている。アッパー素材を見ると軽量化努力の成果がにじみ出ている。

もちろんデメリットもある。価格と耐久性だ。現状の価格は約3万円。これは許せる範囲かもしれないが 軽くするために素材の耐久性を犠牲にしている。一説には400キロが寿命と言うが おそらく話半分として 200キロ程度ではないか。私のような素人で着地がアンバランスな場合 恐らくフルマラソンは3回と持たないだろう。すぐに底の一部がすり減りそうな気がする。大迫選手も 試合ではヴェイパーネクストを履くが 練習では普通の靴だという。

さて 問題を抱えながらも これだけの革新的な商品。なぜ使用禁止の動きがあるのだろうか。反発力がシューズ機能を超えているという正論も分からないではないが それを言えば 短距離のスパイクだって同じ気がする。棒高跳びのポールだって テニスのラケットだって同じだろう。今一つ 説得力がない。

もしかしてナイキの一社独占を危惧しているのだろうか。それはあり得る。しかし ネットビジネスならまだしも 通常は こうした革新的な商品が生まれた後は熾烈な開発競争が生まれ 必ずや近いうちに独占体制は崩れることになる。これが世の常だ。ランニングシューズが例外となる理由は考えられない。

使用中止議論に若干の賛成票を投じるとすれば 私の場合 理由は一つだけ。実はナイキの厚底シューズは中高生競技者のあこがれの的にもなっている。確実にタイムが縮むのだから やむを得ない。一方で この3万円のシューズを実際に購入するのは親かじジジババとなる。年に2足で6万円。これは痛い。親としては「金で記録を買うようなシューズ」は使用禁止になって欲しいと考えても不思議ではない。

しかし 私は今のナイキ独占が長く続くとは全く思わない。競争が発生すれば 耐久性も増し 価格も安い新商品が登場するに違いない。実際に ミズノの今春発表の新シューズは 厚底ではないが すでに反発素材が組み入れられている。箱根駅伝7区間の区間新記録のうち6つはナイキシューズだったが 1つはミズノの反発素材を組み込んだプロトタイプのシューズだった。

さて 3月1日の東京マラソン。日本でもっとも好記録が出るレースだ。設楽選手がオリンピックに出るためにはこの東京マラソンで日本記録を出すしかない。一方で 設楽選手も大迫選手も日本記録を更新したのはナイキの厚底シューズ。もし 東京マラソンで厚底使用禁止になったら その時点で設楽選手のオリンピック出場の目はほぼ消えてしまう。公平を期すならば 少なくとも東京マラソンは厚底シューズOKであってほしい。

最後に 個人的には 昨年 ナイキの厚底が話題になった時(ヴェイパーネクスト発売前)その市民ランナー版の「ナイキズームフライフライニット」という厚底を18,000円で購入した。ハーフマラソンでは好成績を収めたものの フルマラソンでは効果がでなかった。255gという若干の重さが疲れが出る後半に影響した気がした。ちなみに 今 このモデルは「ズームフライ3」という練習モデル(275g)に置き換わってしまった。記録を出したければ3万円出してヴェイパーネクストを買えと言う話かもしれない。

結局 東京マラソンに向け 先週 私が購入したのはミズノの反発素材の入った今月発売の最新モデル(12,000円)だ。ケチった? いや ミズノや他日本メーカーを応援しているのだ。負けるなミズノ!

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