2020年5月 新型コロナ感染者数
今日は5月1日。都内在住者として東京都内の新型コロナ感染者数の棒グラフを毎日見ている。都内の感染者数は減少傾向に入ったようだ。しかし どうもすっきりしない。原因は「感染者数」という言葉だ。
マスコミでは「感染者数」という言葉が使われているが 東京都のグラフを見ると実は「陽性患者数」となっている。しかし 同じ東京都発表の別のグラフでは これを「検査陽性者数」と称している・・・ここまで用語を無神経に使われると困ってしまう。
そもそも 「感染者」には 「発症した感染者(患者)」と「無症状の感染者(病原体保有者)」が含まれる。毎日発表される棒グラフは明らかに「感染者数」ではない。一方「患者」と言えば厚労省データでは「症状がある人」を指す。しかし 東京都の発表する「陽性患者数」には 発症していないが陽性という人も含まれているようだ。発表される数字はどうやら「検査陽性者数」という言葉がもっとも正しいように見える。
そうすると いったい何人検査しているのかという話になる。つまり 恐らくは病床数などの関係で意図的に検査数を低めに抑えている状況で 検査陽性者数がどれほど意味を持つかだ。現状では検査数を低めに抑えるというやり方が一定状況で推移しているようなので それなりの傾向値として解釈できるとは思う。しかし PCR検査対象を拡大する動きが広まれば 当然 検査陽性者数に影響が出る。また 検査数に意図が働いていることを考えれば 検査母体に対する陽性者の割合(陽性率)も使えない。結果として この棒グラフを元に感染の収束を判断するとすれば 判断を誤ることになりかねない。
感染の収束を判断する上で重要な要素と言われているのが「基本再生産数」だ。これは感染力の強度を示すもので 一人の感染者が平均的に何人に感染させるかを表す値である。これが1を切ると収束傾向にあると理解できる。NY州では最近この数値が1を切ったということで収束傾向に入ったことが見られると発表した。ちなみに 東京都では4月1日に基本再生産数1.7という発表があっただけで 以降沈黙状態だ。
西浦教授の80%接触者削減の基本になっているのがこの基本再生産数を1以下にしようという考えだ。日経サイエンス誌によると 西浦モデルは欧州で平均的な増加傾向を示すドイツの再生産数2.5を元にしている。数式は
(1−α)x2.5 < 1
αは接触削減率。上記を満たすαは0.6以上。つまり接触削減率を60%以上にすれば感染者数は減少する。あとはαをどれだけ大きくすればどれだけ早く感染者が減るかという話だ。計算上はαを80 %にすれば緊急事態宣言前の新規感染者数100人に戻るのに15日かかる。更に削減確認に必要な2週間を加味して 1カ月で緊急事態宣言前の状態に戻ったことを宣言できるという計算だ。ただしこのモデルの接触率にはマスク着用や手洗い励行が及ぼす影響は加味されていない。
ちなみに4月1日に東京都が発表した再生産率1.7を上記に当てはめると αは32%。この時点でマスク着用やテレワークがある程度進んでいるので すでに32%の削減率になっていた。しかし 60%以下なので これでは増加は食い止められない。
西浦モデルは目標値設定としては大変役に立つが 実際にα値を計算することはできない。したがって再生産数が1を切っているかどうかはこのモデルでは計算できない。この計算は発表された感染者数(検査陽性者数)を元にしており 結果も感染者数で判断することを前提にしているのだ。何のことはない。結局 発表されている感染者数(検査陽性者数)に戻るのだ。
報道によると 保健所の現場では 病床の空き具合を眺めながら 一人でも多くの命を救うために 誰をPCR検査に回すのか日々の作業に明け暮れているという。これが事実ならば 見方を変えると 保健所の現場采配が収束判断に影響するという恐ろしい状況が浮かび上がる。
今日のテレビでノーベル賞の山中教授が言っていたことに全面的に同意したい。すなわち 診断のための検査と感染状況判断のための検査は切り分けるべきだ。診断は精密なPCR検査で 状況判断は簡単な抗体検査で広範囲にやるべきだ。その通りだと思う。しかし これは今 NY州でやっていることなのだ。なぜ日本でできない!