2021年10月 老いの花


先日 BSテレ東の「武田鉄矢の昭和は輝いていた」でフランク永井の特集をしていた。フランク永井と言えば「有楽町で逢いましょう」で有名な昭和を代表する歌手だ。作曲家 吉田正に見いだされ コンビで数々のヒット曲を残している。

そのヒット曲の一つに「おまえに」がある。吉田正が妻への感謝を込めて曲を作り 岩谷時子が詩をつけている。吉田正は当初からフランク永井に歌わせるつもりだったが 同時に当時34歳の彼はこの歌を歌うには若すぎると感じていた。一方で 歳をとるとともにどのようにこの歌を歌いこなせるようになるかに興味を持った吉田正は 結局 数年おきにレコーディングをし その成長を確かめるという長期計画を思いついた。

実際 この曲は 計画通りに3度レコーディングされている。フランク永井34歳の時 40歳の時 そして 45歳のとき。実に11年をかけた長期プロジェクトだ。第1回目のレコーディングではB面だったが 第2回目からA面になっている。そして 最後の45歳バージョンで 「おまえに」は大ヒットとなった。番組では 34歳バージョンと45歳バージョンの二つを聞かせてくれたが まったくの別物。もちろん45歳の歌に圧倒的な軍配だ。武田鉄矢は 時機を得て輝きを放つ若い花には勝てないが 老いの花というのもあるとコメントした。

私事だが 人を教える教育研修という仕事にも確かに「老いの花」がある。私はライティング思考法「ピラミッド原則」を教えてすでに30年になる。30年も同じことを教えているとだいたい極めた感はあるのだが それでも いまだに新たな気づきがある。内容というよりも教え方だ。内容的にはほぼ極めているのだが これをどう教えたらよいかという点では到達点はない。正直30年前の教え方と今の教え方はかなり違ってきているし 教材は今でも半年に一回バージョンアップを繰り返している。どちらの教え方がよいのか 手前味噌で恐縮だが 圧倒的に今の教え方の方がよいように思う。あたかも「おまえに」の詩や曲は基本同じなのだが 歌い方がまるで違うのに似ている。

私の研修では 研修の終わりに 「一日一回15分使い 簡単なピラミッドを書きなさい。これを4カ月続けて ピラミッド思考を習慣化させなさい。テーマは日々のビジネスを対象にするのがよいが 何でもよい。習慣化が目的なので ごく簡単なもので構わない」と伝えることにしている。先日 研修を受講した方から「一日一回ピラミッドをやっているがネタの見つけ方で苦労している」というメールを頂いた。今迄この種の質問には「何でもよいから 日々感じた問題点を対象にすればよい。あるいは 今日出したビジネス・メールをピラミッド型に作り直してもよい」などと答えていた。でもふとこれじゃ伝わらないかもと考えた。考えた挙句 以下のような返信を書くことになった。

「日々業務で疑問に思うテーマを拾い そのテーマに関して上司やお客に報告書や提案書を書くことをイメージしなさい。その報告書や提案書をどんなロジック構成にすればよいか 仮説的でよいので簡単なピラミッドを組み立ててみます。例えば ① …が今の問題を引き起こす最大の原因だ。そう判断する根拠は第一に… 第二に… 第三に…(報告書)、例えば②問題解決のために…プロジェクトを立ち上げるべきだ。このプロジェクトの目的は… このプロジェクトの構成は… このプロジェクトのチーム体制は…(プロジェクト提案書)、例えば③問題解決のために…すべきだ。第一ステップとして…し、第2ステップとして・・・し 第3ステップとして…(行動計画)など」。

返信メールを出した後に考えた。なるほど。こういう風に説明すれば 日常業務をこなす際に 常に問題意識を持って仕事をするという姿勢が必要なことが分かる。ネタ探しが日々の問題意識につながるのだ。また一つ教えのヴァリエーションが増えた。またひとつ賢くなった。まだまだ老いの花は枯れてはいないようだ。

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