2024年2月 世界の10大リスク


1月半ば 地政学の権威 イアン・ブレマー氏が代表を務めるユーラシア・グループが 恒例の「世界の十大リスク2024」を発表した。

リスクNo.1 米国の敵は米国
リスクNo.2 瀬戸際に立つ中東
リスクNo.3 ウクライナ分割
リスクNo.4 AIのガバナンス欠如
リスクNo.5 ならず者国家の枢軸
リスクNo.6 回復しない中国
リスクNo.7 重要鉱物の争奪戦
リスクNo.8 インフレによる経済的逆風
リスクNo.9 エルニーニョ再来
リスクNo.10 分断化が進む米国でビジネス展開する企業リスク
リスクもどき:①米中危機 ②ポピュリストによる欧州政治の乗っ取り ③BRICS対G7

今年の報告書は 恐ろしい言葉で始まっている。いわく 「2024年。政治的にはヴォルデモートの年、恐怖の年、口にしてはならない年である。三つの戦争が世界情勢を左右する。ロシア対ウクライナは3年目、イスラエル対ハマスは3カ月目に入った。そして米国対米国の争いは、今にも勃発しそうだ。」 この3つの争い(米国内、中東、ウクライナ)がブレナーの挙げる3大リスクだ。

中でも最大リスクとして挙げられたのは米国内の争い。1月15日の米国大統領アイオワ党員集会ではトランプ氏が51%の得票を獲得した。50%を超えるかどうかが注目されていたが 結果としてこれを上回った。対トランプ候補として注目を浴びていたヘイリー氏は3位にとどまった。続く1月22日のニューハンプシャー予備選でもヘイリー氏に10ポイントの差をつけてトランプがトップを確保した。このまま行くと よほどのことがない限り今年もトランプ対バイデンになりそうだ。

トランプ氏にとってみれば 有罪か大統領かという瀬戸際の戦い。バイデン氏が勝てば就任時には82歳 任期終了時にはなんと86歳。ブレマー氏によれば 米国民の大多数が何れの候補者も望んでいない。そして この望まない二者択一の結果は 幾つかのスウィング州の何%かの有権者に握られている。日本が小選挙区制導入時に 見本とした米国の二大政党制は完全に機能不全に陥っている。しかも この機能不全の結果が世界の未来を左右するのだ。

リスクNo.2に挙げられた中東の争い。ブレマー氏がここで言及しているのは イスラエル対パレスチナにとどまらず ガザを超えた地域拡大への危惧だ。まずはイスラエルとヒズボラの紛争拡大。これはすなわち イスラエルを支持する米国とヒズボラを支持するイランの代理戦争だ。このことは米国対フーシ派にもあてはまる。米国は イランが武器供与する武装組織フーシ派の拠点に対しすでに攻撃を開始している。一方 フーシ派をはじめとする反イスラエル感情は中東全域に そして米国内にも広がりつつある。

リスクNo.3はウクライナ問題。ブレマー氏は 西側諸国の支援削減に伴い ゼレンスキー大統領がリスクの高い戦略をしかけるかもしれないと危惧する。最悪の場合 NATOも戦争に巻き込まれかねない。トランプ大統領が誕生すれば当然だが バイデン政権下でも議会が追加支援を渋る米国は欧州の信用を失う。米国とNATO間の溝は深まるかもしれないとブレマー氏は言う。

この報告書を読んで改めて感じたのは 世界はつながっているということだ。ブレマー氏の挙げたリスクはかなり直接的に相互に関連している。米国内の分裂はイスラエル中東問題と関連しているし ウクライナ・ロシア戦争とも綿密に関連している。これにガバナンスが追い付かないAI(テクノポーラ)の暴走を加えれば 何百本もの映画が出来上がるだろう。

さて この状況の中で 我々は何をなすべきか。ブレマー氏は報告書の最後をこう締めている。「今いるこの惑星でより良い仕事をすることに集中しよう」。・・・我々としては できることを正しくやるしかない。

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