2024年10月 3ボール2ストライク


英語で算数を勉強している中学生の孫を見ていて ふと思った。分数を表現するときに 日本では分母を先に 分子を後に呼ぶ。例えば 3/5は「5分の3」。英語ではこれが逆になる。例えば 3/5は「3 over 5」となる。よく考えると この違いは意味深だ。

そもそも 日本語では 下にあるのが「母」で上にあるのが「子」。誰がなぜ「分父」ではなく「分母」と名付けたのだろうか。中国語でも「分母」は「分母」と書くらしいのでこれは中国由来なのだろう。どういう道徳観/宗教観が反映されているのか不明だけれども 算数という論理の世界で「母」や「子」という親子関係(宗教観/道徳観)が反映されること自体がいかにもアジアっぽい。

それにしても なぜ日本語(中国語も同じ)では分母を分子より先に呼ぶのだろうか。母の方が大切だから?あるいは 分母となる全体の方が大切だから?しかし 分母という全体を重視すると 5/3などの仮分数が理解しづらい。もしかすると子が母を超えるという意味になるのだろうか。

英語では 分子は「numerator(あるいは単にtop)」と呼び 分母は「denominator(あるいはbottom)」と呼ぶ。「numerator」の動詞「numerate」 は単に「計算する」という意味で「numerator」には計算機という意味もある。「denominator」の動詞「denominate」は「名前を付ける/称する」という意味で 「denomination」と言えば 「命名/名称/派/階級/宗派」の意味がある。つまり 英語では 分母は単位を意味する固まりで 分子が計算の対象になるということだろう。なるほど。親子関係を持ち出す日本語や中国語よりも英語の方が分かりやすい。

英語では計算の主体である分子を先に呼ぶ。分母は分子を規定する単位の表現に過ぎないという原則に立てば やはりこの順序の方が分かりやすい。社会学流にいえば 「母ではなく子(個人)を重視」していると言えるかもしれない。ともかく分数全体に関して英語流の方が絶対に分かりやすい。

話は変わるが 日本の野球ではストライク・ボールのカウントをコールするときに 以前はストライクを先にコールしていた。たとえば「2ストライク3ボール」。ところが米国では当初からこれとは逆にボールを先にコールしていた。たとえば「3ボール2ストライク」。日本の野球が米国に準じてボールを先にコールすることになったのは2010年の話だ。

アメリカ野球の草創期は 打者が指定したゾーンに入った球だけがストライクと判定されたらしい。それ以外のボール球はすべて無視された。ボールに対してペナルティはなかった。つまり ボールの数をカウントする必要もなかった。しかし それでは時間がかかりすぎるので その後9ボール(今は4ボール)で一塁に歩けるようにした。ボール球に対し投手にペナルティをかけることになったのだ。この時に 投手へのペナルティを重視し 「外した球」を先にカウントするようになったという。そりゃ8ボールまで許されるなら まずはボールが今幾つ目なのかちゃんとコールしてもらわないと分からなくなるだろう。あくまでも打者視点なのだ。

日本でもアメリカから野球が伝わった頃は同じコール順だったらしい。ただし 本格的に日本で野球が普及し始めたときにはすでに4ボール制になっていた。これは推測だが 4ボールで一塁というように投手へのペナルティが厳しくなると コースに入った球を打てない打者へのペナルティをもっと明確にしようということでストライクを先にコールすることになったらしい。つまりアメリカ流が打者視点なのに対し 日本流は投手視点と言える。

しかし アメリカ流コールは野球がテレビで放映される前の大昔の話だ。テレビで放映される現在では ほとんどの場合 投手後方からの図柄で放映される。となると 視聴者はいやおうなしに投手視点になる。そういう視点でテレビを見ていると 打者視点でボールからコールされるのは実に分かりにくい。

打者視点でカウントする方が攻撃視点なので面白いという理屈は理解できる。ならば テレビの放映も打者視点での図柄にしてほしい。それはさすがにちょっと見づらいだろうから 現実にはキャッチャー視点ということになるだろうか。キャッチャーのヘルメットにカメラを装着して カメラの揺れをAIで調整すれば不可能ではない気がする。それだったら 「3ボール2ストライク」のコールも身に染みる。ぜひご検討いただきたい。

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