2025年9月 明快なライティングとは・・・
私が主催する研修「考える技術・書く技術」に 関心を示す企業は大企業であれ 中堅企業であれ みな向上心に富む企業だ。
ここしばらくは 中堅企業(従業員千人以下)の新規依頼が毎年2、3件続いていた。こうした企業を見ていると成長企業特有の状況が見て取れる。例えば しばらく前は 単一の商品・サービスを売っていたのだが 成長を続けてくると必然的に複合的な商品・サービスを売るようになる。つまりシステムを売るようになる。
システムを売るようになると 単一の商品を売るのと異なり 売り方が異なる。以前は一つの商品機能をアピールするだけでよかったものが 今度は総合的なメリットをアピールする提案書が必要になる。システムを売る提案書は複合的な視点が必要になるため 単一の商品・サービスを売る提案書とは本質的に異なる。
また システムで故障や問題が起きたとき 単一の商品を売るのと異なり その原因発見プロセスは格段に複雑になる。システムではいろいろなことが複合的に絡み合って問題を起こすからだ。したがって問題原因究明の報告書では格段に明快で論理的なライティングが必要とされる。
つまり システムを売るのと単一の商品を売るのとでは 売り込みからサービスまで 考え方が異なるのだ。そして 必要となるライティングも異なってくる。難易度はレベルアップする。よく見ていると これは中堅企業から大企業への避けて通れない発展過程のように見える。
さて 今年は驚くことに 日本を代表する超大企業2社から新規研修の依頼があった。私の研修は今年で33年目。これまでに私が直接教えた企業だけで250社 25,000人におよぶ。私が翻訳したバーバラ・ミントの「考える技術・書く技術」は新版旧版併せて38万部売れているし 小著「入門 考える技術・書く技術」も電子書籍やオーディオブックを併せると20万部以上売れている。なので 少なくともこうしたことに関心を持ちそうな大企業の間ではそこそこ名前は知られていると思っていた。実際 ここ数年 そうした大企業からの新規依頼はなかった。
改めて大企業の方と話をしてみると 大企業なりの悩みが見えてくる。まず共通するのは忍び寄る大企業病への懸念である。たとえば 大企業では 報告を効率化するために 報告書フォーマットをある程度統一化しようとする。これである程度の効率化は達成できるのだが 時を経つと別の問題が起きてくる。例えば フォーマットを埋めていくことに書き手の意識が行ってしまい その報告書で結局何を言いたいのか メッセージに対する意識が薄まってくるのだ。いわゆる 「So What?」だ。
別の悩みは国際化だ。国際化した大企業では 日本本社で作成した報告書を海外法人と共有しなければならない。ところが日本語の報告書を英訳すると 海外でまったく通じないという事態が発生することがある。つまり 日本語で何とか通用したあいまい報告書の問題が英語で露呈するという事態だ。
昔 某巨大米国企業の日本法人社長(米国人)が日本の調査会社に調査を依頼したことがある。調査会社は大手の伝統的な日本の会社だった。その調査会社は出来上がった日本語報告書をバイリンガル社員に英訳させ 日本語版と英語版の2つの報告書を提出することになった。その英語版報告書を読んだ社長は愕然とした。報告書の内容が理解できなかったからだ。結局 調査会社の日本人調査担当者を呼びつけ 自社のバイリンガル社員を同席させ 逐一Q&Aを繰り返しながら その自社のバイリンガル社員に再度ゼロから英訳させたという。笑い事ではない。同じようなことが今も日本の大企業の本社と海外法人の間で発生しているかもしれないのだ。
中堅企業も大企業もライティングの悩みは尽きない。明快なライティングとは明快な考えに他ならないからだ。