
2026年6月 MLBのABS判定を考える
今回のテーマはMLBだ。
個人的な話だが 暇な午前中はNHKのBS放送でドジャーズ戦を見ることが多い。ちょっと気になったのは MLBで今年から採用されているABS(Automated Ball-Strike)すなわち機械による「自動ストライク・ボール判定システム」だ。今の判定はおかしいのではないかと思った捕手・投手・打者は審判にABS判定を求めることができる。審判の誤審による不公平を少しでも減らそうというのが導入の目的だ。
ABS判定求めることのできる回数は1試合に2回まで。ABS判定で審判の判定が覆った場合は この要求回数は減らないという仕組みだが 審判が正しければ2回で権利消滅。したがって 試合の始めでこの権利を使用することはあまりなく 後半の競り合った状況で使用することが多くなる。結果として ABSが後半の競り合いで 試合の面白さを増大するという副次メリットも生まれている。
気になるのはABSの判定基準だ。まずストライクの上下判定で言えば ルール上での上下判定は打者が構えたときのもの。上限は 打者の「肩の上部」と「ユニフォームのズボンの上端」の中間点を通る水平ライン。下限はひざのお皿の下のライン。しかし これは構えによって異なるので ABSではゾーンの上限は直立身長の 53.5% の高さ。下限は直立身長の 27.0% の高さと決めてしまうことにした。データを取るためにMLB全選手は春季キャンプで身長測定を行っている。結果として 低くかがみこんで構える打者にとっては不利だ。しかし 好んでこういう構え方をするのだから個人的にはやむを得ないと思う。
気になるのは広さの方だ。ルール上ではホームベースの上を少しでもかすればストライクだ。つまり上下とこのホームベースで囲まれた立体スペースを少しでもボールがかすめればストライクになる。ところが ABSでは測定場所をホームベースの真ん中に定めている。つまりホームベースの真ん中で上下の平面(四角形)を作り それを少しでもかすめればストライクになる。
これは変化球投手にとっては大いに不利。例えば 大谷選手がするどいスイーパーを投げたとする。ホームベースの前方をかすめ ベースの中央でストライクゾーンからはみ出るようなスイーパーだ。この場合 定義上はストライク。しかし ABS判定ではボール。鋭いスプリットボールも同じだ。たとえ審判の判断が正しくてもABS判定では覆るのだ。
つまりABSでストライクならすべてルール上もストライク。しかし ルール上でストライクでもABSではボールとなる場合があり得るのだ。判定時に 野球の基本ルールを軽んじて はしょった機械判定を優先するというのは厳密に言えばおかしい。何か理にかなわない気がする。正直 変化球投手にとってはとても納得できない処置かもしれない。
もしABSのこのやり方が米国より先に日本で検討されたとすると 几帳面な日本人にとって MLBのようにすんなりとはいかない気がする。しかし この辺が米国人のいい加減さというか 柔軟なところ。考えてみれば ルールブックが憲法で ABS判定が法廷とでも考えれば納得できないこともない。これで 現状のあまりに多い審判の誤審の悪影響を少なくできるならば それはそれでよいだろうという考えだ。人間の目に間違いが多いことを前提と考えれば ABSは全体としてはフェアであることには間違いない。人間の目よりも多少はしょった機械判定でもまだましだという考えだ。
この考え方はビジネスにも通用するかもしれない。原理原則に細かくこだわるのではなく 大まかなルールの枠で現状改善という目的を優先すれば いろいろの解決策が見えてくるということだ。そしてまずはやれることから始めればいいという考え方だ。おそらくは あと数年以内にはルール通りにABSも三次元で判定するということになる気がする。カメラ測定は大変かもしれないが 技術的には問題ないはず。それまで 大谷選手も腐ることなく 思う存分にスイーパーとスプリットの曲げを追求していただきたいものだ。