2009年7月No.1 1Q84、そして、1984


村上春樹氏の『1Q84』(いちきゅうはちよん)が空前のベストセラーになっています。私も先日、読み終えました。小説の中では、この1Q84とは、1Q84年、すなわち、1984年のもう一つの世界を指しています。

なぜ1984年かと言えば、あの『動物農場』で有名な英国人作家、ジョージ・オーウェルの小説、『1984』をモチーフにしているからです。私自身はこの『1984』 を直接読んだ事はないのですが、1984年に訪れるであろう全体主義国家の恐怖を描いた近未来小説で(執筆は1948年)、『動物農場』と同様に、ディス トピア(反ユートピア)小説の代表作と言われているそうです。

さて、ジョージ・オーウェルは、近未来小説の形をとり、『1984』 の中で、全体主義の恐怖を警告しました。このことをモチーフに、村上春樹氏は、『1Q84』の中で、今度は近未来ではなく、近過去にあったかもしれないもう一つの世界を、ジョージ・オーウェルとは逆方向で描くことで、現代の(つまり、1984年から見ると未来の)恐怖を伝えようとしたようです。勝手な解釈 ですが、これから『1Q84』を読もうとする方は、こうしたことを念頭におくと面白いかもしれません。・・・えっ、村上春樹は何の恐怖を伝えようとした か?・・・それは皆さんが自分のハートで理解してください。ただ、個人的には、結末部分をもう少し詳しく書いていただきたかった。どちらかと言えば、『海辺のカフカ』の方がおもしろかったかな。(もちろん、素人感想です。)

私は、この本を読んで、自分の1984 年を振り返りました。31歳、務めていた日本の商社を辞め、米国系の経営コンサルティング会社に転職した年です。初めての転職でしたが、まったく何の不安 もありませんでした。後ろを振り向く余裕などなく、ただひたすら明日に向かって必死に仕事に取り組んでいた時代です。ちょうど、経営コンサルティングとい う職種がようやく日本のビジネス界に根を広げつつあった時代です。そして、ちょうどこの頃から日本はまっしぐらにバブル景気へと突入していきます。もしか すると、この時、多くの日本人が1Q84年にスリップしていたのかもしれません。

>> 過去のひと言