2010年3月 トヨタに急ブレーキ(その2)


前回、プリウスの持つハイテク機能の中に占めるソフトの割合は実に大きなものになっているはずだという話をしました。トヨタは間違いなく世界トップクラスのテクノロジー企業と言えます。しかし、少なくとも私にとってのトヨタの技術イメージとは、ものづくりの技術です。

昔、 外資系のコンサルティング会社に勤めているときに、多くの自動車関連のコンサルティングに携わりました。今でも明確に覚えているのは、ホンダの開発者の話 です。「トヨタの生産技術は本当にすごい。新開発の車でも、販売当初から完璧に仕上がっている。ドアとボディがまったく狂いなく収まっている。ホンダの場 合、最初の数ヶ月は、どうしても、ミリ単位の狂いが出てしまう」と語ってくれました。25年前の話しです。

しかし、時代は、見える技術から見えない技術の時代へと進化していきました。トヨタは間違いなく、見える技術では世界のトップと思いますが、見えない技術ではどうでしょうか?

今回のプリウス・ブレーキ問題では、結局、ABS制御のコンピュータ・プログラム上の不具合と、新型プリウスで新たに採用したABS作動後の油圧ブレーキ・システムの違和感が、原因だと説明されました。

後 者に関して言えば、今までのプリウスでは、ブレーキの踏み具合をセンサー感知し、それを電気式ポンプに伝え、油圧ブレーキを稼動させていたといいます。回 生ブレーキと油圧ブレーキを統合制御するためには、データを統合処理するしかなかったわけです。しかし、この時のノイズなどに不満の声があったために、新 型では、ABS作動後は、電気式ポンプではなく、ペダル圧力をメカニカルな形でそのまま油圧ブレーキに伝えるシステムにしたそうで、どうやら、この新システムの反応に大きな違和感があったようです。

結 局のところ、ソフト制御の一部をハード(メカニカル)に戻そうとしたことに無理があったと言うわけです。あまりにも複雑なシステムの連携状況に驚いてしま いますが、私には、「いったん、見えない技術の世界に足を踏み入れてしまえば、もう古きよき時代に戻るのは無理なのだ」と言う声に聞こえます。

豊 田社長は、記者会見の席上、プリウスのブレーキ問題の対応遅れを説明する際に、“カイゼン”という言葉を用いました。はたして、見える技術におけるカイゼ ンと見えない技術におけるカイゼンを同じレベルで議論してよいのでしょうか。プリウス・ユーザーとしては、一日も早い、トヨタの経営ソフトのカイゼンを望 むばかりです。

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