2010年5月No.2 往復はがき
先日、将棋雑誌の問題回答を往復はがきで送った。往信のあて先は日本将棋連盟、返信のあて先は私自身である。投函して2 日もしないうちに、その往復はがきが切り離されないまま私の元に配達されてきた。「これはしまった。往信と返信を逆に書いてしまったか」と思い、じっくり とあて先を調べてみた。しかし、どうみても私の書き方に間違いはない。そもそも性格上、私はこういう凡ミスはほとんど犯さない人間である。
あ ろうことか、投函した往復はがきが間違えて返信のあて先に配達されたのである。とても信じられない。郵便局が往復はがきの往信と返信を間違えて配達したの だ。こんなこと、生まれて初めての経験である。官製の往復はがきは、往信面と返信面では印刷された切手の色を変えて間違いが起こらないようにしている。郵 便局で郵便物の仕分けをしているプロは今までに恐らく膨大な量の往復はがきの行き先を仕分けしてきたに違いない。そういう人がなぜこんなミスを起こすのだ ろうか?・・・もしかしたら、その仕分け人は前日、子どもが急病になり看病で寝不足だったのかもしれない。あるいは、当日の朝礼で、今年は不景気のために 給与はベアゼロだと申し渡されたのかもしれない。人生に苦労はつきもので、ミスはつきものである。
この話を妻にしたところ、彼女が言うに は、「それはひどい。でも、普通は、配達の人だって気づきそうなものよね。往復はがきを配達するのだから、配達人だって、どっちに配達するかあて先を チェックするでしょう。切り離されていない往復はがきを返信先の方に届けるなんて配達する人だったらすぐにおかしいと気づくはずだ。」・・・しかし、もし かすると、その配達人は前日、高齢の親が入院し、その世話で寝不足だったのかもしれない。あるいは、前日、財布を落とし、そのことで頭がいっぱいだったの かもしれない。
翌 日、その往復はがきを購入し、投函したポストがおいてあった某郵便局にその往復はがきを持っていった。「今後このような初歩的なミスは絶対に起こさないよ うに徹底して欲しいという」という心からの善意のご忠告と、無駄になった往復はがきを新しいものに代えてもらうためである。
た またま出てきた窓口のおばちゃんはひたすら申し訳ありませんでしたとの言葉。しかし次に、所定の用紙を私に渡し、住所氏名を記入してくれと言う。よく見な かったがどうも苦情表のようなものだった。誤配のはがきを渡しているのだから、それを書き写せばよいのにと思ったが、むかつく気持ちを抑え、民営化された とはいえ所詮はお役所仕事と割り切り、素直に応じることにした。そして、新しい往復はがきを下さいと言ったところ、な、な、なんと、「この消印は世田谷郵 便局の消印で、仕分け業務はそちらでやっており、実際のミスはそちらの責任になる。ここは投函されたはがきを世田谷郵便局に持っていくだけ。したがって、 そういう要望は世田谷郵便局に言っていただくしかない」との言葉。ちょっと待って。「何のために私はここで苦情表に氏名を書かされたのだ!」さすがの私も 堪忍袋が切れかけたところで、ただならぬ雰囲気を感じ取った若い女性がさっと出てきて、申し訳ありませんとすぐに代わりの往復はがきを持ってきた。
私は、その時初めて、その若い女性がい かにも正社員風で、それまで対応していたおばちゃんが契約社員風なことに気づいた。・・・そうか、もしかすると世田谷郵便局で郵便の仕分けをしていた方 も、配達をした方も契約社員だったのかもしれない。もしかすると、正社員と比べはるかに安い給料で、将来の不安で頭がいっぱいだったのかもしれない。