2010年8月No.2 本当のサングラス


歳を取るにつれて眼の疲れがひどくなってきた。という わけで、先日、サングラスを新しく買い求めることにした。以前、このコラムでも解説したことのあるタレックスのサングラスだ。メーカーのタレックス光学工 業は大阪生まれの中堅企業で、サングラスなどに使用される偏光レンズの専門メーカーである。タレックスのサングラスと言えば知る人ぞ知る存在で、サングラ スの偏光レンズではその技術は世界一と言われている。自信に満ちたキャッチ・コピーは、“ほんとうのサングラスをかけたことがありますか?”である。

さて、このメーカーの売り方 には頑固一徹さが伺える。第一にタレックスはレンズの専門メーカーなのでフレームは取り扱っていない。フレームを売らないサングラスのレンズ・メーカーが 他にあるのかどうかは知らないが、レンズ一筋の精神は筋金入りだ。しかし購入は面倒くさい。基本的には、フレームを持ち込んでレンズを入れてもらうことに なるが、すべてのフレームに装着可能というわけではない。私の場合、昔から使用しているお気に入りのレイバンのレンズを入れ替えてもらおうと思ったが、球 面測定の結果、難しいとのことだった。そこで、結局、その眼鏡屋さんで新たにレイバンのサングラスを購入し、もったいないが、そのレイバンのレンズをタ レックスのものに入れ替えてもらうことにした。ただし、値段は、私の購入した度なしのタレックス・レンズが1万3千円程度。レンズ自体の値段は思っていたよりはるかにリーズナブルだった。

もう一つの頑固な売り方がタレックス認定プロショップ制度である。要はそこでしか買えないのだ。レンズのみを売るとなると、レンズとフレームの調整などい ろいろ難しい技術も必要だろうから、この制度自体に文句はない。しかし、あまりにもこのショップの数が少ない。東京23区内では、わずか8つの店舗でしかタレックスを買えない。私の故郷である福岡市ではわずか一店舗、福岡県全体を見ても、北九州市と行橋市を入れてわずか3店舗しかない。

私は考えた。経営コンサルタントとしてならば、おそらくはショップ数を2、 3倍に増やすことを提案するだろう。少なくとも、大手の百貨店くらいでは売ってもよいのではないだろうか。今の評判からすれば間違いなくそれくらいの市場 はあるだろうし、高齢化の現状からみれば市場が減る事は考えられない。ショップ網を拡大することにより、宣伝・広報、小売店教育などももっと効率化・標準 化できるはずだし、何より消費者が買いやすくなる。私をコンサルタントに雇えば、あっと言う間に売上げを倍にさせるくらいの自信はある。

しかし、一方で、こうも考え た。こういう頑固なへそ曲がりの会社が一社くらいあってもよいのではないか。結局のところ、“ほんとうのサングラス”を欲しいと思えば、レンズとフレーム を別物として考えるのは当然のことだ。レンズとフレームを一緒のものとして売っている現在のサングラス流通が問題を抱えているのであって、最後に生き残る のはもしかすると別売りのシステムの方なのかもしれない。また、結局のところ、“ほんとうのサングラス”を欲しいと思えば、23区内で8箇所も購入可能な場所があれば十分なのかもしれない。それくらいの面倒臭さをいとわない心の準備を消費者に求めるのはむしろ当然のことなのかもしれない。売上げを伸ばすことだけが、会社を大きくすることだけが経営ではない。

・・・で、タレックスはどうか?今まで、レイバンのサングラスで、屋外に居るときに、雑光というか、レンズ上の光のギラツキが時々気になっていたのだが、それがまったくない。本当にまったくない。掛け値なしに満足しております。

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