2012年5月 職人の技
先日、マーケティングの研修講師をしていて、最近の“お買い得”は何かという話になった。以前、この欄で書いた、“ニコンのミラーレス一眼”はなかなかのお買い得だと思っている。しかし購入してまだ3か月程度なので最終評価はもう少し先に延ばしたい。
やはり、過去一年のお買得最有力に挙げたいのは“爪切り”だ。知る人ぞ知る“SUWADA”の爪切り。今、隠れた流行になっているペンチ型の爪切りである。ネットで約6千円。爪切りとしてはなかなかの値段だ。一年近く前、もっと切れ味の良い爪切りが欲しいと思いネットで調べたところ、たまたまこの商品に出会った。購入したときは知らなかったが、ほとんどのネイルショップで使用されている著名品らしい。
この商品の売りは「職人の手仕上げによる切れ味の良さ」だ。切れ味が鋭いと柔らかく爪を切ることができる。この柔らかく爪を切る感覚は使ってみないと説明しづらい。爪切りをするたびに日本の職人芸の素晴らしさを感じさせてくれる商品だ。
メーカーは新潟県三条市にあ る諏訪田製作所。三条市と言えば、いわゆる“燕三条”。洋食器や金物など、伝統的な職人産業が有名な地域である。伝統的な職人産業と言えば聞こえは良い が、私の持つ燕三条のイメージは困難の歴史そのものだ。一時期世界を席巻する輸出基地として全盛を極めたものの、東南アジア・メーカーとの価格競争で輸出 は激減。恐らく、燕三条にあるほとんどのメーカーが存続の危機を経験したはずである。逆に言えば、今、生き残っている燕三条のメーカーはそのような過酷な 競争を生き延びた企業である。そして、私の知る限り、これら生き残りに成功した燕三条の企業に共通してあげられる特徴が“職人技術”へのこだわりである。
諏訪田製作所も大正15年創業の中堅企業。おそらく、苦難の歴史を経て今の地位を築き上げてきたはずだ。やはり生き残りの最大の武器となったのは諏訪田の持っていた“職人技術”。この職人技術を維持し、発展させ、“SUWADA”というブランドを作り上げるほどになったのだから、そのこだわりは尋常ではない。というか、それしか生き残りの道はなかったのかも知れない。ともかく、“SUWADA”と言えば、今や“職人が手作業で作る高級爪切り”そのものなのだ。HPによると、諏訪田では最近オープンファクトリーを始めたらしい。職人が作っているところを実際に見てくれというのだ。確かに、職人技術と言うのは見せても真似られるものではない。自信の表れなのだろう。
それにしても、ニコンのカメラ、諏訪田の爪切り、Boseのスピーカー、ポルシェのスポーツカー・・・ハイテク、ローテクを問わず、日本、海外を問わず、良いものには共通して職人のこだわりを感じる。