2013年1月 ジャネーの法則


2012年が終わった。歳を取ると、本当に一年が過ぎるのが早くなる。

フランスの哲学者、ポール・ジャネーと、その甥の心理学者、ピエール・ジャネーは、「50歳の人間にとって1年の長さは人生の50分の1であるが、5歳の人間にとっては5分の1に相当する。よって、50歳の人間にとっての10年間は5歳の人間にとっての1年にあたる」と解説した。非常に単純化した説明だが、“ジャネーの法則”と呼ばれ、そこそこ有名な説らしい。この説に従うと、私は今年60歳になるので、私の1年はつまり、6歳の子供にとっての10年と同じだということになる・・・うわっ、これはすごい。しかし、なぜか納得してしまいそうな説得力がある。

また生理学的に見て、歳を取ると運動能力が衰えるので、若いころに10分でできた仕事が、歳を取ると20分かかる。仕事の量からみると、時間が倍近く早く経ったように感じるという説もあるという。つまり、まだこれだけしかやっていないのに、時計をみるともう締切時間が来ているという感覚だ。実際に、3分経ったらボタンを押しなさいという心理学の実験では、小中学生は3分が来る前にボタンを押すのだが、60/70歳になると20秒近く経過してボタンを押すという・・・あまり合意したくないが、もし事実だとすれば、これは悲しい。これは「やわらかな生命の時間」(井上慎一著、秀和システム出版)に登場する話だが、同書では他にも様々な説を紹介している。

例えば、子供時代だと一日や一週間の単位で物事を考えるのだが、歳をとると一年や数年の単位で物事を考えねばならなくなる。つまり、考える時間の単位が違ってくるので、同じ一年でも歳をとると早く感じるという説もあるらしい・・・一理ありそうな気はする。

同書では、海馬説というのも紹介している。脳の海馬では、今起こっていることが記憶の中にあるかどうかを調べ、なければその情報を記憶領域に運ぶ働きをする。この記憶領域に運ぶ回数が時間を感じる長さになるという説だ。つまり、歳をとると新しい経験が減るので、新たに記憶領域に運ぶ回数が減る。したがって、時間が短く感じられるようになるというのだ・・・だとすれば、記憶力が悪くなり、しょっちゅう海馬に働いてもらわねばならないようになれば、時間を長く感じるようになるのだろうか。あるいは、今迄に経験したことのないことにチャレンジしたり、新しい場所に旅行したりすると、その年は長く感じられるようになるのだろうか・・・個人的には、にわかには同意しがたい。

いずれにせよ、人生の残り時間が少なくなってくると「あれもやらねば、これもやらねば」と思うのは人の常。一年一年がだんだんと短く感じるのも当然と言えば当然かもしれない。しかし、ある意味、スピード感があって、この感覚は個人的にはけっして悪くない。正直、私にはもっともシンプルなジャネーの法則がすんなりと来る。

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