2013年6月 夢に限界はない
三浦雄一郎さんが80歳にしてエベレスト登頂に成功した。本当に驚きでしかない。
エベレストとは比べ物にならないが、個人的には富士山には何度か登ったことがある。富士山だって馬鹿にはできない。このクラスでも高山病にかかる人が何人もいるし、頂上まで登れば実際に空気の薄さを感じる。正直、80歳で富士山の頂上に登るのもちょっとしたニュースだと思う。しかし、80歳で世界最高峰8,848mの世界だ。とても信じられない。
帰国後、三浦さんに対するメディアでの取材で、お決まりのように出された質問が、「次の計画は?」だった。確か、某テレビで「8,000mからスキーで滑降したい」というようなことを話していたと思うが、その後にサラリと口にした次の言葉は印象的だった。「夢には限界がないからね。」
実際、脳科学的に見て、「夢を持つ」という行為に年齢はあまり関係ないらしい。脳科学者、澤口俊之氏によれば、人間の脳は20歳代半ばで成長を終えるが、未来記憶(将来の目的や計画、状態などに関する記憶)の能力は、脳の成長が止まって以降も衰えないという。「もうこれでいい」と現状満足するのではなく、「成長したい」という意欲を持ちさえすれば、70~90歳になっても夢を持つことはできるという。
最近、60過ぎの友人と話をする時に、「将来、何かやりたいと思っていることがあるか」とよく聞いてみたりする。もちろん、自分の参考にするためだ。この歳になると、某生命保険会社のCMのように「将来の夢は何か」と直接的に聞くのも気恥ずかしい。そこで、ちょっと言葉を変えて尋ねてみる。しかし、中身は一緒だ。この質問に対して、数人に1人くらいの割合で、具体的な答えが返ってくる。私の感覚では、意外と多くの中高年が具体的な夢を持っている。しかも、この歳で具体的な夢を持っていると即答できる人は、押しなべてその夢実現に向かって既に準備を始めている。「大学で教えてみたい」と答えた友人は具体的に講義を前提にした資料集めを始めていたし、「製品デザインをやりたい」と答えた友人は空いた時間を利用して、米国のデザイン学校に短期留学する予定だという。ポイントは、60過ぎの人たちが持つ夢は、純粋に損得勘定なしの夢だという点だ。
こうして周りを観察していると、高齢化社会をリードするのは、夢を持ち、夢の実現に向かって、損得勘定なしで行動する中高年のような気がしてきた。今、中高年観察が面白い。