2013年10月その2 米国民の怒りの行方
17日、米国のデフォールト懸念がとりあえず回避された。しかし、今回の出来事は余りにも脆弱な米国の政治状況を印象付けることになった。昨年、オバマ大統領が再選した時、このコラムで「共和党穏健派が徐々に姿を消していく中、共和党に潜む、アメリカの問題の根深さと危うさを感じた大統領選挙だった」と書いた(2012年11月)。この一年前に抱いた危惧が今、現実の脅威となった。今の米国では、一部国民の怒りがかなりのレベルに達しているようだ。
そもそも、なぜ共和党のティーパーティ・グループがあれほどまでに支持され、力を得ているのか。まるでヒトラー時代の再現を思い起こさせるような状況すら感じてしまう。ティーパーティが「大きな政府」を嫌う白人保守層の集まりで、大幅な財政支出を伴うオバマケアに大反対で、黒人大統領であるオバマを嫌うのはよく分かる。そういう人たちがいても仕方ないだろう。個人的には6人に1人が医療保険にはいっていない状況をそのままにしてよい筈はないと思うが、それはそれとして、国民皆保険など必要ないと言いたい人がいるかもしれないと言うのもあり得ることだとは思う。
しかし、百歩譲るにせよ、予算合意や債務上限引き上げ合意の交換条件として、すなわち、米国という国家の運営を担保にして、すでに正式に法案として成立し、最高裁のお墨付きを得、既に申し込み受け付けが始まっているオバマケアの変更や実施延期を要求するというのは、幾らなんでも度が過ぎている。法治国家としてとても信じがたいことだ。その行為に何の建設的なものも見られない。米国の政治制度の抜け穴を利用して、ノーを突きつけているだけではないか。怒りをぶつけているだけの扇動者ではないか。
そう、恐らく、ティーパーティとは一部の米国民の中に存在する強い怒りや不満のはけ口なのだろう。ますます広がる生活格差、常態化する雇用不安、仕事を奪う不法移民、失われてゆく米国の優越的地位・・・。ティーパーティの台頭はこれらの怒りや不満がかなりのレベルに達しつつあることの表れだと思う。911のテロ事件やアフガン戦争などに国民の怒りが向かっていたものの、それら一連の騒動が一段落したところで、オバマ大統領、そしてオバマケアという格好の怒りの対象を見つけたのだ。
ちょっと待って。そう考えると、第2の大国、中国も同じような状況にあると言える。世界の二大大国で、それぞれ国民の怒りレベルが急上昇している。怖いのは、多くの国が、国民の怒りを抑え込むのが難しくなると、仮想敵国をつくり、そちらに怒りのはけ口を向けさせようとすることだ。中国はこのパターンと言えるかもしれない。
さて米国は、ティーパーティに象徴される一部国民の怒りにどう対処するのだろうか。私としては、シリアへの戦争を画策した時に、オバマ大統領にそういう気持ちがなかったことを祈るばかりだ。