2014年2月 私見 出版事情


新聞の勧誘には洗剤のおまけや野球の無料チケットがつきものだ。なぜ? …理由は再販価格制度という法律にある。新聞や出版物などの文化(?)事業は 文化レベルを維持するために 値引き販売を禁止するというものだ。その結果 新聞は値引き競争ができず(つまり値引きをやらずに済み)おまけ競争がそれにとって替わる。穿った見方をすれば 新聞社の談合と言えなくもない。過去何度となく再販価格制度廃止の声が上がったというが 新聞社の強い抵抗には誰も勝てない。

書籍も再販価格なので 本屋で値引きというものはない。どんなに売れない本でも値引きはできないのだ。これはネット販売でも同じ。もちろんそのままでは本屋の経営は立ちいかない…というわけで 書籍では出版社への返品という制度がワンセットとなる。売れないので値引きというやり方が許されない商品では 売れなければすべて返品となるのだ。もちろん 書籍だけではなく 小売りされるすべての再販価格商品では返品制度がワンセットになっている。

書籍の場合 返品率は平均で確実に40%は超えているだろう。10万部刷ったら そのうちの4万部以上が返品として出版社に戻り 結局は断裁してサヨウナラとなる。何とももったいない非効率的な話だ。これが文化レベル維持を標榜するために作られた再販価格制度の現実である。

したがって出版社にとっては 返品をいかに防ぐかが営業の腕の見せ所になる。出版社は書店に配本した段階で売上げを立て代金を回収するのだが 返品された場合 その時点で代金を払い戻さねばならない。一方で 書店とすれば 新刊書は山のように出てくるし 棚の面積は限られているので 気づく限りせっせと返品する。結果として返品率は上昇の一途をたどる。コストのかかる本で売れなかった場合など 悲惨な末路を招く。昔 アイドルの写真集を数百万部刷ったが 思いのほか売れずに 60%を超える返品となった出版社があった。結局 その出版社は倒産した。

出版社は表立って絶版はしない。絶版にすれば その時点ですべての返品を受け入れる必要がある。これは大変な出費だ。したがって 出版社は絶版にするのを避け 一度に返品されるのを防ぐ。出版社から見れば 書店で売れない本は書店の在庫であり 出版社の在庫ではない。この結果 出版社のコンピュータでは書目数(品目数)だけがやたらと増え続けることになる。しかしよく見ると その書目数の1/3はまったく売れていないという状況なのだ。

昔 中堅出版社のコンサルティングをした時に 大ナタを振るって売れない書店在庫をすべて引取り 登録上の書目数を2/3にするという大合理化を行ったことがある。結果として 万年赤字の会社を一年で黒字化することに成功した。書店在庫はもちろん、効率化に対する出版社社員の意識改革に成功したのだ。この出版社はそれ以降ずっと黒字である。

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