2014年2月 私見出版事情 その2


前回は返品にまつわる話を書いた。今回は電子書籍の話だ。

私が二年前に出した「入門 考える技術・書く技術」が増刷になりますという話が来た。確か今回で9刷になるので そこそこ売れている。しかも 増刷部数が8千部だという。ビジネス本的に言えば 5千部が全国書店の最低配荷レベルなので 初版では安全を見て5~8千部の印刷と言うのが一般的だ。増刷で8千部というのはかなり景気の良い話である。さてこれで何万部刷ったことになるのだろうかと考えてみて はたと思いあたった。すぐに何万部と言う数字が出てこないのだ。

ちなみに著者が受け取る出版物の印税は 売れた時点ではなく 刷った時点で刷った部数を基準にして計算される。印税の%はビジネス本であれば販売価格の8~10%が妥当なところだろう。したがって出版物では 増刷時にそこそこの印税が小遣いとして入ってくる。ちょっとした楽しみだ。

ところが この「入門 考える技術・書く技術」は10近い電子書籍でダウンロード可能な契約にしている。電子書籍では刷るということがないので ダウンロードした時点で印税の支払となる。ただし その分 印税の%は紙の倍以上になる。私の場合 ダイヤモンド社にお願いして窓口になっていただいているので 同社から毎月どこからどれだけダウンロードされたかの報告が届き 毎月印税が支払われる。しかし 増刷の単位が数千部であるのに対し 電子書籍のダウンロード数は月に数十部の話だ。残念ながら 楽しみと言えるレベルにも達しない。いつの間にか振り込まれ いつの間にか消えていく。

ところが 先日届いた報告書では 驚くことに某電子書籍で月に3千部のダウンロードがあったという。こうなると電子書籍もばかにならない。どうやら急速に電子書籍が幅を利かせてきたようなのだ。問題は紙による従来型の出版システムと紙を使わない電子書籍という新システムの二つのシステムが併存している点だ。つまり 刷った部数が中心の従来システムと売れた部数のみしか意味のない新システムが混在しているのだ

著者視点で言えば 今までは刷った部数が唯一の数字だった。しかし今や この従来型観念がそろそろ通用しなくなってきたのだ。しかも 経験してみると分かるのだが この新旧システムはお互いに影響し合って併存しているのだ。

もう少し安定化すれば 紙の刷数と電子書籍のダウンロード数にそこそこの関係が見えてくるのかもしれない。当然 出版物のカテゴリや対象読者によって異なるであろうが 必ず一定の関係数が見えるに違いない。これが見えれば もっともっと売れる工夫ができそうな気がする。もう一冊本が書けそうな気がしてきた。

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