2014年10月 バランス感覚


先日 78歳を迎えた大学の大先輩とゴルフをした。この年齢にして100程度でラウンドするかくしゃくとしたスポーツマンである。彼のもう一つの趣味は山登りだ。しかし最近はなかなか山登りをする機会が減ってきて 長めのウォーキングが主になってきたという。理由を尋ねたところ 足腰が弱くなったというよりもバランス感覚が悪くなったためだという。

山登りをしていると 当然 丸太道や崖沿いの細い道を歩かねばならないときがある。バランス感覚が悪くなるとそうした細い道を通るのが怖くなるという。恐怖感がでると筋肉が硬直してさらに上手く足を運べなくなる。そういう話を伺うと 三浦雄一郎のエベレスト登頂と言うのは実に大変なことなのだと思い知らされる。体力ばかりが強調されるが こうしたバランス機能の低下など総合的なことを考えると本当にすごいことなのだ。

誠に私的なことだが 先日 孫と公園に行った。幼稚園年長組の孫が鉄棒で逆上がりをしたのを見て 実に何十年ぶりに私も逆上がりにトライした。おじいだってできるところをみせようと思ったのだが 何度やってもできない。腕の筋肉が衰えたのかとも思ったが どうもこのバランス感覚の衰えのような気がしてならない。

そう考えると ビジネスや経営 あるいは 人生も同じようなもので バランス感覚の維持というのはとても難しい。昔 著作のために 米国P&Gで当時CEOだったダーク・ヤーガーさんに取材をしたことがある。ヤーガーさんとは彼がP&G日本で社長をやっていた時からクライアントとコンサルタントの関係にあった。今でも明確に覚えているが 私が「経営で最も難しいと感じることは何ですか?」との質問に対し「DivergenceとConvergenceのバランスをとることだ」と言った。Divergenceとは分散・発散 Convergenceとは集束の意味だ。彼はDivergenceとConvergenceのバランスの一例として ボトムアップとトップダウンの意思決定のバランスを挙げた。

当時の私は彼の言葉を「DivergenceとConvergenceの中庸の道を取ることが難しい」と理解した。山登りや逆上がりのバランス感覚である。しかし後に思考法を学習して分かったのはもう一つのバランス感覚の大切さである。

思考法的には言えば Divergenceは発想思考 Convergenceは絞込み思考を指す。ここにおけるバランスとは それら二つの思考の中庸をさすのではない。DivergenceとConvergenceを上手く組み合わせ 両方をバランスよく繰り返すことを指す。Divergenceは息を吐く Convergenceは息を吸うようなものだ。この両方を同時にやることは出来ない。もちろん片方だけではだめ。繰り返しなのだ。今考えるとヤーガーさんはこの意味でのバランスにも言及していたのかもしれない。経営におけるバランス感覚とは本当に難しい。

>> 過去のひと言