2014年11月 森下九段がんばれ!


今 将棋がブームになりつつあるらしい。ライブストリーミングサービスのニコニコ生放送では 6つの将棋タイトル戦を対局開始から終了までノーカット完全生中継している。この中継は平均20~30万人の来場者という人気ぶりで コンピュータとプロ棋士が闘う電王戦最終局の来場者は何と70万人までいったと言う。

この電王戦には日本将棋連盟を初めとする関係者の意欲と努力が実によく表れている。実際のところ 誇り高きプロ棋士がコンピュータ相手に勝負するなど 負ければプロの価値を問われかねない。挑戦にはかなりの勇気がいる。正直な話 引き受けたプロ棋士は断りきれずにやっているのだろうなと私は思っていた。

しかし先日 第3回電王戦の舞台裏テレビ番組を見て実に驚いた。この第4局に登場した森下九段(48歳)は自ら志願して挑戦者になったと言う。森下九段は立派な経歴はあるものの大舞台での決勝敗退が多く タイトルには恵まれなかった。彼の年齢48歳は棋士としてはかなりのベテランだ。集中力の維持が大切な将棋の勝負では 中高年は分が悪い。彼もまた寄る年波には勝てず若手の台頭に押されずっと停滞状況にあった。そして彼が停滞打破の場所として選んだのが電王戦だった。

結果は惜しくも負けてしまったのだが 負けた後に実にさばさばした表情で「出場してよかった」と語ったのが印象的だった。これを機会に座右の銘は「淡々」から「情熱」に変わったと言う。どうやらこの挑戦のために今までやったことのないような量の下準備をしたらしい。コンピュータは定石にない指し方をするので 人間と対戦するような従来型の準備ではだめと言う。この新鮮さが彼に新たなエネルギーを与えたのだ。中高年の星として 森下九段の今後の頑張りには注目だ。

一方で若手の台頭も将棋界を盛り上げている重要な要因だ。この電王戦で唯一コンピュータに勝利したのは 関西若手四天王の一人 豊島七段(24歳)である。この後 王座戦決勝で羽生王座に挑戦するも惜しくも2勝3敗でタイトル奪取はならなかった。しかし間違いなく近い将来の名人候補だ。同じく関西若手四天王の一人 怪物と言われる糸谷七段(26歳)も将来の名人候補である。彼は竜王戦挑戦者決定戦で羽生王座に勝ち 今 森内竜王との竜王戦決勝の真っただ中にいる。しかも 今現在 二勝一敗で優勢だ。タイトル獲得となればついに将棋界に新たな世代の登場となる。40歳代半ばの羽生九段(名人、王位、王座、棋聖)と森内九段(竜王) 30歳の渡辺九段(棋王、王将) そして 20代半ばの豊島七段と糸谷七段 まさに群雄割拠の時代が始まっている。がんばれ森下九段!

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