2015年1月その2 トヨタへの期待
トヨタの「ミライ(燃料電池車)」には驚いた。まさかこんなに早く燃料電池車が登場するとは考えてもみなかった。ハイブリッドの次は100%EV 燃料電池車はその次だろう。あと20年くらい先の話しかなと漠然と思っていたからだ。これで私の次の車は燃料電池車で決まりだ。
更に トヨタの燃料電池車に関する特許無料公開のニュースには感激した。さすがトヨタ。やるではないか。実はこのニュースを耳にして 私がかつて携わったECR(Efficient Consumer Response)の事を思い出した。
ECRとは1988年以降 米国のグローサリー(日用雑貨)業界で繰り広げられた業界ぐるみの流通効率化運動のことだ。もともとは米国最大の消費財メーカーであるP&G(プロクター・アンド・ギャンブル社)と米国最大の小売りチェーンであるウォルマートが手を組んで開発した物流効率化が発端になっている。それ以前 米国のグローサリー業界では メーカーと小売りは敵対的な関係にあった。メーカーは出来るだけ多く売りつけようとし 小売りは出来るだけ安く買いたたこうとしていた。P&Gとウォルマートが共同で何かをやるなどあり得ない状況だった。
劣悪な関係を何とかしたいと考えていた両社のトップは極秘プロジェクトを組み まずは物流の改善から取り組むことにした。それまでは ウォルマートが自社倉庫の在庫状況を見てP&Gに商品を発注し P&Gがメーカー倉庫からウォルマート倉庫に配送し ウォルマートが自社倉庫から店舗に配送するという仕組みだった。問題はこの過程に存在する流通在庫を如何にして削減するかである。
結論から言えば 発注の8割を占める補充商品に関しては 購入者であるウォルマートではなく 納入者であるP&Gが発注と納入を管理することになった。つまり 売り手のP&Gが買い手が購入する商品・数量・配送時期を決定するのだ。発想の転換だ。これを可能にしたのが 当時最先端だった 衛星を経由した販売・発注・配送・在庫データの共有だった。冷静に考えてみれば 補充品の管理ならば 何十万品目を扱うウォルマートがやるよりは 千品目を扱うP&Gがやる方がよほど効率的だし間違いもない。もちろんデータを共有しているのだから P&G側で悪いことをしてもすぐに分かる。
結果として 流通在庫・物流コストが30~40%削減しウォルマートと競合する小売りは大慌てすることになる。もちろん ウォルマートは他メーカーにも同様のやり方をやってほしいし P&Gも他小売りに同じサービスを提供したい。というわけで このやり方のすべてのノウハウを業界に提供し 業界を挙げて更なる効率化運動に取り組むことになった。具体的には P&Gとウォルマートが主導でECR委員会を主宰し 来る者拒まずで改善アイデアを出しあうことになったのだ。
トヨタさんに一言提案するとすれば 特許公開だけではまだ不十分ということだ。ここまで覚悟したのならばもう一歩進めるのがよい。ぜひ世界規模の燃料電池開発運動を展開し 特許の裏にあるすべての思想やノウハウを共有するようにすることを進めてほしい。そうすれば トヨタが今迄気づかなかった更なるアイデアが生まれてくるに違いない。この辺は小著「P&Gに見るECR革命」(ダイヤモンド社 中国語・韓国語訳あり)に詳しいので ぜひご一読あれ。