2015年4月 ジクレー版画(その1)


先週一週間 ホノルルに行っていた。夜ワイキキのビーチウォーク通りを散歩の途中 ふらっとギャラリーに立ち寄った。ウィンドーに飾ってあったヘザー・ブラウンの絵に惹かれたのだ。今やかなりの著名売れっ子アーティストなので名前は知らずとも 作品を見ればああこの絵かと思う人も多いに違いない。カリフォルニア出身ハワイ在住の女性若手アーティストで 日本にもヘザー・ブラウン・ギャラリー(代官山)があるほどの人気らしい。

ギャラリーでは 奥の一角にヘザー・ブラウン・コーナーが設けられ 多くの作品が展示されていた。展示されていた作品はすべてキャンバス地だったが 近づいてよく見ると やはり版画。今はやりのジクレー版画だと言う。ちなみに ヘザー・ブラウンの版画はすべてジクレーだという。ジクレー版画?・・・お恥ずかしい話だが このヘザー・ブラウンの実物を見るまで 私はジクレー版画が何なのか全く知らなかった。 

木版やエッチングもあるが 現代の美術版画はリトグラフ(水と油の反発を利用した平板印刷)とシルクスクリーン(プリントゴッコみたいな仕組み)が主流だった。ちなみに私のオフィスや自宅には米国のポップアート版画を何枚か飾っているが すべてシルクスクリーン(米国風に言えばセリグラフ)である。しかし調べてみると 今やジクレー版画が幅を利かせつつあるようなのだ。

ジクレー版画とは 要するに高級インクジェット・プリントのこと。原画をデジタルで読み取り それをインク吹付で印刷するのである。ただし数百種類のインクを用いて数万色を発色させる超高級インクジェットだ。これにより原画をかなり忠実に再現できるようになっているし 紙だけでなくいろいろのものに印刷できるようになっているという。 

まさにデジタル時代の申し子。言いこと尽くしに思えるが これを美術品として見ると話しが違ってくる。つまり何枚でも全く同じものを生み出せるインクジェット印刷物にどれだけの美術的価値を見出すかという問題である。つまり幾らで売るか買うかという問題だ。 

たとえば ホノルルのギャラリーでお気に入りのジクレー版画が売られていたとする。しかし その版画には値段表示がない。ものすごく気に入っているのだが あなたはそれがジクレーであり ジクレーがジェットプリント印刷であることも承知している。さて あなたは幾らならばこの作品を買うだろうか?

あるいは まったく同じジクレー作品が二つあり 片方には作品の裏側にアーティストの署名がついている。しかし もう片方にはどこにも署名がない。裏側に署名つきのものの相場販売価格が5万円だとする。あなたが売り手ならば 署名なしのものは幾らで売ればよいだろうか。もちろんジクレー印刷なので作品そのものはまったく同じである。(次回に続く)

>> 過去のひと言