2015年10月 傾斜マンション
1976年。私の東大建築学科の同級生が大手ゼネコン(現場部門)に就職した。一緒に卒論を書いた仲間の一人だ。就職後数年して 仲間と集まった時 しみじみと本音を語りだした。「今 福岡のモデル現場の仕事をしている。先日 現場で検査が入った後の話し 検査後すぐに現場所長から鉄筋を抜き取るように命じられた。要はインチキをしろということだ。これがモデル現場の実態だ。」鉄筋を抜く作業も大変だとは思うが 当時はその方がコスト減だったのだろう。倫理観の強い友人はその後もいろいろな悩みを抱え続けたらしい。それから数年後 20歳代の若さで 独身のまま自ら命を絶つことになった。
あれから40年経った今 まったく同じような いやもっと悪質な不正が未だに繰り返されている。昨年明らかになった住友不動産・熊谷組のパークスクエア三ツ沢公園(横浜 2003年完成)の杭打ち不正に続いて 今回の三井不動産・三井住友建設の横浜市都筑区マンション(2007年完成)の杭打ち不正。強固地盤に何本もの基礎杭がとどいていなければいつか傾くことくらい誰でも分かるはずだ。いったいこの業界はどうなっているのだろうか?結局 現場作業者一人に責任をなすりつけ 後は買い取りで片付けようという気なのだろうか?
2年前 自宅マンションを買い替えた時 建築会社の友人の最初の質問は「ゼネコンはどこ?」だった。場所とか広さとか建築年ではなく ゼネコンの名前だった。私にとっては最初の質問がそれかと意表を突かれた感じだったが 今その理由が分かった。私が清水建設だと答えると それじゃ安心だねという反応。鹿島建設や竹中工務店でも同じ反応だったと思うが これが熊谷組や三井住友建設だったらどういう反応だったのだろう。ことそれほどに ゼネコンによって信用度がまるでちがうということらしい。しかも 信頼できるゼネコンというのはほんの一握りであるらしいのだ。
今回の横浜都筑区の問題マンションのゼネコンは三井住友建設である。私は元請けのメインの仕事は下請けの管理だとずっと思っていた。下請けの管理すらできない しかも構造のもっとも基礎の部分 基礎杭の施工管理すらできていないゼネコンとはいったい何なのだろうか。
ただし今回不幸中の幸いと言えるのは販売業者が三井不動産であったことだろう。住民の訴えから10ヶ月以上経ってようやくとの感じもするが 住友不動産の三ツ沢公園マンションは竣工直後から問題があり住友不動産がまともな対応をするのに11年もかかったという。とても信じられない話だ。
今回 ゼネコンや下請け業者や不動産会社 さらには許認可官庁などにとっては あまりにも多くの課題が残された。しかし消費者にとってはあまり選択肢はない。マンションを買う時には 第一にゼネコン 第二に販売不動産会社というくらいだろうか。ゼネコンや不動産会社はこのことを決して忘れてはならない。