2017年1月 チェ君の話


明けましておめでとうございます。さて 今日は季節感のまったくない話をひとつ。昨年の私個人のビッグニュースの上位にランクされる話です。

今から40年近く前 私が米国ビジネススクールに留学していた時の事 韓国人留学生チェ君と親しくなった。彼の実家は韓国でナンバーワンの電池(サンパワー)を製造する韓国証券市場上場の化学メーカー。オーナー企業の経営者だった。名門ではあるけれども財閥間の競争に立ち遅れた小財閥というところだろうか。彼はそのファミリーの長男。父親は長男を米国ビジネススクールに留学させる一方 次男はドイツの大学院に留学させていた。典型的なエリート一族である。

米国ビジネススクール卒業から10年近く経った頃 P&Gが韓国に合弁会社を立ち上げるという話しが日経新聞に載った。よく読むとその合弁の相手がチェ君の会社だった。P&Gは合弁候補の中でもっとも小さな相手を選択したとあったが 後でP&Gの方に聞くと 跡取り経営者であるチェ君の人柄と能力を高く評価した結果だったという。すぐにチェ君におめでとうの連絡をすると 折り返し ソウルに遊びに来ないかとのメッセージ付きで 大韓航空の東京・ソウル間ファーストクラスのオープンチケットが送られてきた。(その後 チェ君の社長時代 自社立て直しのために この合弁企業の持ち分はP&Gにすべて売却。P&G韓国は今はP&G100%となっている。)

さて そのチェ君ともここ数年ごぶさたしていた。連絡をとろうとするとメールがつながらない。会社のHPを見るとどうも雰囲気が違うし 彼の名前はどこにもみあたらない。電池事業は既にデュラセルに売却されていた。ようやく ビジネススクールの同窓会ネットワークに彼のメールアドレスを発見したので近況伺いの連絡をしてみた。すぐに返事がもどってきた。なんと彼はソウルではなくニューヨークにいた。彼曰く

電池を始めとした会社の事業はその多くがミッド・テクノロジー。ハイテクならまだしも ミッドテクの将来は難しい。いろいろ考えた末に 会社を事業ごとに分割し 一つ一つ売り払ったという。その後 家族全員でニューヨークに移住し 今はニューヨークでファミリー資産のファンド運用をしているという。

なるほど 確かに頭の中では理解できるし それがもっとも妥当な選択だったと言えるかもしれない。しかし 彼は ファミリーという絆を大切にする生粋の韓国人であり しかも そのファミリーの長男なのだ。ミッドテクとはいえども韓国最大電池メーカー企業のトップだったのだ。その彼がファミリービジネスのすべてを売却し しかも 韓国と言う祖国を離れ 60歳にしてニューヨークに移住したというのだ。ものすごい苦渋の決断であり 親戚一族から非難の嵐だったのではないかと思う。

ファミリービジネスを捨て 祖国を離れ 60歳にしてゼロに立ち戻った勇気・・・すごい!たとえ私にお金があったとしても 日本を離れ しかも激動のニューヨークに移り住む勇気があるだろうか?・・・ニューヨークでなく ハワイだったらありかもしれないが。

(昨年11月に 新著「入門 考える技術・書く技術【スライド編】」を上梓しました。ご参照ください。)

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