過去のひと言
2017年9月 ベストセラーの書き方
今 私は企業向けにビジネス思考とビジネス・ライティングを教えている。ビジネス・ライティングとは 自分のメッセージ(考えや主張)を読み手に伝えようとする「メッセージ・ライティング」だ。しかし ライティングには他にもいろいろな種類がある。例えば 新聞の社説は「メッセージ・ライティング」であるけれども 一般の新聞記事は情報提供を目的とする「情報ライティング」と言える。また 警察官や消防士の書く報告書は 証拠として採用できるように事実を記すことが重要な「ファクト(事実)ライティング」が基本だ。小説は読み手の興味を引き付けることを目的にした「ストーリー・ライティング」である。週刊誌は「情報ライティング」と「ストーリー・ライティング」の両方の役割を担うが「ストーリー・ライティング」の性格が強い。
さて メッセージ・ライティングをずっと教えていると その対極にあるストーリー・ライティングに大きな興味を抱くようになった。特に2年ほど前から 本当に小説を書いてみようかという気になり 暇を見つけて少しずつ勉強している。目指すのはストーリー・ライティングの究極の形 ミステリーだ。
小説の書き方の類の本をいろいろ読んでみたが ベストはアメリカの小説家が書いた「ベストセラー小説の書き方」(著者:ディーン・R. クーンツ)だ。1996年に書かれた古いものだが 間違いなくこれが一番。特にこの本でもっとも役に立つのが最後の章 「読んで、読んで、読みまくれ」という章だ。ここには 著者が主観で選んだベストセラー作家が数十人紹介されている。さらに 著者のコメントとともに 作家ごとに数冊の推薦図書が紹介され 推薦図書の数は合計で300冊くらいになる。著者は ここにリストされた本の1/5以下しか読んでいない人にはベストセラーは書けないと明言する。
この紹介図書の中から 私の興味対象外であるSFものを除いてみても 200冊を超す数になる。この中から著者が「名著」「必読」「秀逸のストーリー構成」などと記したものを厳選し とりあえず今 20数冊を読み終えた。1/5読むのも難しいかもしれないと思ったので その代わりに各図書を精読することにした。具体的には 書き手の視点で深読みし 読みながらストーリーラインをメモしている。読み終わった後には 1、2ページのストーリー・シートにまとめ 本の参考ポイント テーマ 登場人物構成などを書き留めている。
当然 この「ベストセラー小説の書き方」自体が20年前のものなので 紹介された図書もかなり古いものとなる。これまで ジェームズ・ケイン レイモンド・チャンドラー ダシェル・ハメット ウィリアム・ゴールドマン ジャック・ヒギンズ アイラ・レヴィンなどを読んでいるが 私の大好きなジェームズ・ケインの「郵便配達は二度ベルを鳴らす」は何と1934年の作品だ。ダシェル・ハメットやチャンドラーもかなり古い。しかし驚くことに こんなに古いのに発想にまったく古さを感じない。ベストセラーというのは時代を超えて生きるレベルの高さをそなえている。実に面白い。何冊か読んだ時点で なぜ「ベストセラー小説の書き方」の最後の章にこれを持ってきたのかを痛感した。やはり最後はベストセラーのベストセラーたる所以を実感することが大切なのだ。
こんなベストセラーなど私に書けるわけがない?・・・それが常識だろう。しかし そう思ったら何もできない。これら見事なベストセラーを読んでいると ますますチャレンジ精神をかき立てられてくる。
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