過去のひと言


2014年12月 ノーレイン・ノーレインボー

えぅ もう2014年も終わりか・・・という気分だ。ホノルルマラソン参加に絡めてハワイに出かけたのは最高だが 帰国後は本当に師走状態になってしまった。

さて、ホノルルマラソンは12月の第2日曜日と決まっている。今年は昨年に続き二度目の出場だ。二度目だから準備万端整えたつもりだったが それでも読みが甘かった。

まずは天候。ハワイの12月は雨期で雨が多い。これは知っていたが 昨年のホノルルマラソンは完璧な晴天 つまり 常夏状態だった。あまりの暑さに 折り返し以降はずっと頭から水をかけながら走っていた。暑さと疲労のために 持参したエネルギージェルを口から飲もうとしても喉を通らない。汗をかきすぎてナトリウム不足になったのせいか 足もつりそうになった。こんなことは初めてマラソンを走って以来のことだった。この反省を踏まえ 今年は完璧な猛暑対策で臨むことにした。半袖Tシャツをやめ肩を出したランニングにし ポケットに塩飴を常備し 帽子をかぶり サングラスを持参した。何れも昨年の反省点を踏まえた準備だ。

しかし今年は昨年とは違っていた。朝5時のスタート時点から小雨。徐々に雨足が強まり 途中から風も強くなり スコール状況になった。靴はびしょびしょ 道には水たまり 寒くて寒くてどうしようもない。準備して役に立ったのは帽子くらいのものだ。天気予報は快晴だったはずなのに と思いながら走っていて気づいた。私がチェックした天気予報は午前の天気だった。しかしホノルルマラソンのスタートは朝5時の真っ暗闇。実際に走っているのは午前になる前の時間帯だったのだ。確かに天気予報通り朝8時過ぎから雨足が衰え ゴールする9時頃には快晴になったのだ。

予想外は日の出時間。昨年の第二土曜日は12月8日で 今年は12月14日だった。この約1週間の差がもろに日の出時間の遅れに表れた。昨年は6時少し過ぎたくらいでかなり明るくなったのに今年は幾ら走っても日の出にならない感じだった。本当に寒さが身に染みた。これはまったくの計算外。

それでも結果から見れば 猛暑の昨年よりも雨の今年のマラソンの方がタイムはよかった。後半 雨足が緩んだ頃にはダイヤモンドヘッドの上空に大きな虹もみることができた。日本流にいえば「雨降って地固まる」はハワイ流にいえば「No rain. No rainbow.(雨降って虹)」となるらしい。「雨のお蔭で虹が見えるのだよ」とは実にハワイらしい。一年を締めるにふさわしい。それじゃ 2015年は虹に向かって走ることにしよう。

2014年11月 森下九段がんばれ!

今 将棋がブームになりつつあるらしい。ライブストリーミングサービスのニコニコ生放送では 6つの将棋タイトル戦を対局開始から終了までノーカット完全生中継している。この中継は平均20~30万人の来場者という人気ぶりで コンピュータとプロ棋士が闘う電王戦最終局の来場者は何と70万人までいったと言う。

この電王戦には日本将棋連盟を初めとする関係者の意欲と努力が実によく表れている。実際のところ 誇り高きプロ棋士がコンピュータ相手に勝負するなど 負ければプロの価値を問われかねない。挑戦にはかなりの勇気がいる。正直な話 引き受けたプロ棋士は断りきれずにやっているのだろうなと私は思っていた。

しかし先日 第3回電王戦の舞台裏テレビ番組を見て実に驚いた。この第4局に登場した森下九段(48歳)は自ら志願して挑戦者になったと言う。森下九段は立派な経歴はあるものの大舞台での決勝敗退が多く タイトルには恵まれなかった。彼の年齢48歳は棋士としてはかなりのベテランだ。集中力の維持が大切な将棋の勝負では 中高年は分が悪い。彼もまた寄る年波には勝てず若手の台頭に押されずっと停滞状況にあった。そして彼が停滞打破の場所として選んだのが電王戦だった。

結果は惜しくも負けてしまったのだが 負けた後に実にさばさばした表情で「出場してよかった」と語ったのが印象的だった。これを機会に座右の銘は「淡々」から「情熱」に変わったと言う。どうやらこの挑戦のために今までやったことのないような量の下準備をしたらしい。コンピュータは定石にない指し方をするので 人間と対戦するような従来型の準備ではだめと言う。この新鮮さが彼に新たなエネルギーを与えたのだ。中高年の星として 森下九段の今後の頑張りには注目だ。

一方で若手の台頭も将棋界を盛り上げている重要な要因だ。この電王戦で唯一コンピュータに勝利したのは 関西若手四天王の一人 豊島七段(24歳)である。この後 王座戦決勝で羽生王座に挑戦するも惜しくも2勝3敗でタイトル奪取はならなかった。しかし間違いなく近い将来の名人候補だ。同じく関西若手四天王の一人 怪物と言われる糸谷七段(26歳)も将来の名人候補である。彼は竜王戦挑戦者決定戦で羽生王座に勝ち 今 森内竜王との竜王戦決勝の真っただ中にいる。しかも 今現在 二勝一敗で優勢だ。タイトル獲得となればついに将棋界に新たな世代の登場となる。40歳代半ばの羽生九段(名人、王位、王座、棋聖)と森内九段(竜王) 30歳の渡辺九段(棋王、王将) そして 20代半ばの豊島七段と糸谷七段 まさに群雄割拠の時代が始まっている。がんばれ森下九段!

2014年10月 バランス感覚

先日 78歳を迎えた大学の大先輩とゴルフをした。この年齢にして100程度でラウンドするかくしゃくとしたスポーツマンである。彼のもう一つの趣味は山登りだ。しかし最近はなかなか山登りをする機会が減ってきて 長めのウォーキングが主になってきたという。理由を尋ねたところ 足腰が弱くなったというよりもバランス感覚が悪くなったためだという。

山登りをしていると 当然 丸太道や崖沿いの細い道を歩かねばならないときがある。バランス感覚が悪くなるとそうした細い道を通るのが怖くなるという。恐怖感がでると筋肉が硬直してさらに上手く足を運べなくなる。そういう話を伺うと 三浦雄一郎のエベレスト登頂と言うのは実に大変なことなのだと思い知らされる。体力ばかりが強調されるが こうしたバランス機能の低下など総合的なことを考えると本当にすごいことなのだ。

誠に私的なことだが 先日 孫と公園に行った。幼稚園年長組の孫が鉄棒で逆上がりをしたのを見て 実に何十年ぶりに私も逆上がりにトライした。おじいだってできるところをみせようと思ったのだが 何度やってもできない。腕の筋肉が衰えたのかとも思ったが どうもこのバランス感覚の衰えのような気がしてならない。

そう考えると ビジネスや経営 あるいは 人生も同じようなもので バランス感覚の維持というのはとても難しい。昔 著作のために 米国P&Gで当時CEOだったダーク・ヤーガーさんに取材をしたことがある。ヤーガーさんとは彼がP&G日本で社長をやっていた時からクライアントとコンサルタントの関係にあった。今でも明確に覚えているが 私が「経営で最も難しいと感じることは何ですか?」との質問に対し「DivergenceとConvergenceのバランスをとることだ」と言った。Divergenceとは分散・発散 Convergenceとは集束の意味だ。彼はDivergenceとConvergenceのバランスの一例として ボトムアップとトップダウンの意思決定のバランスを挙げた。

当時の私は彼の言葉を「DivergenceとConvergenceの中庸の道を取ることが難しい」と理解した。山登りや逆上がりのバランス感覚である。しかし後に思考法を学習して分かったのはもう一つのバランス感覚の大切さである。

思考法的には言えば Divergenceは発想思考 Convergenceは絞込み思考を指す。ここにおけるバランスとは それら二つの思考の中庸をさすのではない。DivergenceとConvergenceを上手く組み合わせ 両方をバランスよく繰り返すことを指す。Divergenceは息を吐く Convergenceは息を吸うようなものだ。この両方を同時にやることは出来ない。もちろん片方だけではだめ。繰り返しなのだ。今考えるとヤーガーさんはこの意味でのバランスにも言及していたのかもしれない。経営におけるバランス感覚とは本当に難しい。

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