過去のひと言


2014年9月 アラームが鳴った月

最近どういうわけか忙しく このコラムを書く暇もなかなかない。時々読んでくれている方 本当に申し訳ありません。

忙しいと言っても仕事が急に増えたわけではない。減っているわけでもないが増えてはいない。ただ 若干ではあるが 手間のかかる仕事が増えてきたのは事実かもしれない。まず 売り上げは増えていないのに顧客数が増えている。つまり新しいお客さんが増えている。もう同じような研修を20年以上やっているので 今さらと言う気がしないでもないが すそ野が広がっているという気はする。

また好景気のせいか 人材育成を真剣に考えるお客さんが増えてきたようで 研修の後の添削の依頼が増えている。添削は時間がかかるので私としては大変なのだが 効果は高い。更に しばらくご無沙汰だった英語版研修の依頼や問い合わせも相次いでいる。来月はその内の一件が予定されている。参加者はフィリピン人や台湾人や韓国人。某企業東京本社で働いているそうした外国人相手に 英語で 考えの組み立て方やその表現方法を教えるのである。徐々に日本もグローバル化してきた。

しかし本当に忙しいのは 仕事の依頼などの外部要因ではない。外部の話しは昔から何やかやとあった。やはり 忙しいのは私の頭の中にある人生時計のためだろう。つまり残りの人生を考えると 今のうちにやらねばならないと思うことがたくさん出て来るのだ。暇になってゴルフをやろうとしたら やはり今の内から仲間を作っておかないとゴルフ相手に困ってしまう。マラソンも少しサボると後が大変と言うか 走れなくなるかもしれない。孫も今の内に遊んでやらないと 将来遊び相手になってくれなくなる。もちろん私事に限らず 仕事的にもまだやり残したことがあるし 書き残した本もある。本当にやりたい事に尽きることはない。

先日 北島三郎の最終公演を聞きに明治座まで出かけてきた。紅白歌合戦も昨年が最後だということだったが 定例の明治座座長公演もこれが最後だという。もうすぐ78歳だそうだ。まだまだやれるのにという声も聞こえてきそうだが 体力的にきついのが最大の理由ではないと思う。おそらく まだまだやりたいことがいっぱいあるからこそ 今の内にという考えだと思う。

先月 親しくしていたビジネススクールの一年先輩が66歳で亡くなった。亡くなる二か月前に一緒にゴルフをしたばかりだった。肺炎をこじらせたとかで 入院後3週間であっと言う間に亡くなった。更にやはり先月の話し これも66歳のビジネススクールの友人が 脳梗塞で3週間入院した。軽度だったのでまったく何の障害もなく全快することができた。何よりだったが 一歩手遅れになればと考えると空恐ろしい。61歳の私にとっては 先月は何かとアラームの鳴る月だった。

2014年8月 横浜マラソンに見るプライシングの発想

そろそろ秋以降のマラソンを意識する時期になってきた。さて今年の市民マラソンの話題は何と言っても横浜マラソンだろう。今迄ハーフマラソンとして開催されてきた大会が ついにフルマラソンに衣替えをすることになった。その第一回大会が来年3月15日に予定されている。

みなとみらいをスタートし 関内地区を抜けて 首都高速湾岸線を走り みなとみらいに戻るという実にあっぱれな観光コースだ。高速道路上を走るのだから かなりの高低差への覚悟は必要。しかし それを差し引いてもこのコース設定は魅力的だ。

当然 出場は抽選になるのだが この倍率がどのくらいになるだろうかという予想がネットをにぎわしている。ちなみに3万5500人出場の東京マラソンの倍率は10倍。2万8000人出場の大阪マラソンは5倍。ネット情報によると 大阪マラソンの倍率には達しないのではないかと危惧されているらしい。

倍率が低そうなのは 第一回フルマラソンなので認知度が低いせいもあるだろうが 参加費の高さだろう。横浜マラソンの参加費は国内では最高額の1万5千円だ。東京マラソンの参加費は1万800円。大阪マラソンは1万円。国や自治体の税金を一切使わず ランナーの参加費とスポンサーシップだけで運営するのが売りの湘南国際マラソン(同じ神奈川県)ですら 12,500円なのにである。

さらによく分からないのは 参加費が割高な一方で チャリティランナーの寄付額は割安なのだ。東京マラソンの場合 10万円を寄付すれば抽選なしで出場できるチャリティランナー制度というのがある。ちなみに この寄付は昨年から寄付金控除の対象となっている。何せ東京マラソンであるからにして また 団体を選んで純粋に「寄付」するのであるからにして 「10万円寄付してでも」と言う気持ちはとてもよく分かる。私自身はチャリティランナーに応募したことはないが 毎年 どうしようかなと悩んではいる。ちなみに 大阪マラソンのチャリティランナーの場合 必要寄付額は7万円となっている。

ところが 横浜マラソンの場合 チャリティランナーに必要な寄付金は5万円。参加費が1万5千円なので 追加で3万5千円払えば抽選なしで参加できるのだ。う~ん。これは思案のしどころ。しかし 参加費といい チャリティランナーの寄付金といい 誰がどうやって決めたのだろう。

いずれにせよ 倍率数倍なのだから マーケティング的に需要と供給で見れば 参加費はもっと高くても当然と言えるのかもしれない。しかし それは儲けるためのマーケティングの話。今回は一般市民を対象とした公共のイベントである。なぜ湘南国際マラソンの意志を貫けないのだろうか。公共マーケティングのセンスに欠けている。

2014年7月 その2 東京外郭環状道路

私のランニング・コースは 多摩川 野川 仙川の3つだ。家のそばの仙川はお手軽なジョギング用。その次に近い野川は調布の深大寺参拝がてらの気分転換用。多摩川はジョギング道路に距離表示があるので本格練習用である。いずれもきれいに整備された遊歩道が続いており 走りやすい。

小規模の仙川は二子玉川の少し上流で野川と合流し 野川は二子玉川で多摩川と合流している。規模で言えば 多摩川 野川 仙川の順だ。中でも 大きからず小さからずの野川は規模的に実に親しみやすい。湧水も多く 多くの野鳥が生息しており 都内でも珍しい自然が残っている。

その野川の 多摩堤通りから東名高速の間の環境が今激変している。住所的に言えば世田谷区喜多見周辺だ。悪名高き東京外郭環状道路の工事が急ピッチで進んでいるのだ。環八の更に外側を取り囲む東京外郭環状道路は1966年に計画された古いものだが 関越から東名を結ぶ都内区間においては しばらくの間休止状態で 一般住民の頭から消えていた。誰が考えても練馬・杉並・世田谷で今時こんな幹線道路の用地買収などとても無理だろう・・・と私も思っていた。

ところが いつの間にか 知らないうちに大深度地下使用法なる法律ができあがり 40メートル以深であれば公共施設は自由に作ってよいことになっていた(2001年に施行)。というわけで この東京外郭環状道路も地下41~70メートルというとてつもない深さにトンネルを作り 日本最大の地下道路として誕生することになったのだ。このトンネル道路が野川の西側を通過し 途中から地上に顔を出し 東名高速の高架に結ばれることになる。

トンネル道路にめどをつけた政府・都庁は 東名とつながるこのジャンクション周辺地域の用地買収を積極的に行ってきた。数年前から 道路建設の説明会などが地元住民に行われ始めたのは知っていた。しかし 自然豊かな野川沿いのこの地域には多くの住宅があり つい数年前に開発された瀟洒な戸建開発地もある。この用地買収だけでも20年近くはかかるだろうと思っていた。ところが 東京オリンピック決定以降のこのわずか数ヶ月間で 周辺地域の建物取り壊しが目立つようになった。今 東名連結部には巨大な建築物が工事中であり この周辺地域は歯抜け状態のように建物が残っているのみになってしまった。わずか数か月間の出来事だ。

この風景を見るとなぜか いつか見たことがあるようなデジャブ的な感覚になる。野川そのものは残ってはいるのだが 周辺の建物の多くが取り壊しの最中で いたるところにクレーンやショベルカーがある。デジャブではないのは この野川の地下数十メートルの見えない世界に巨大の高速道路トンネルが建設され そこを24時間絶えることなくものすごい数の自動車が行き来するという近未来だ。・・・見えないところで環境破壊が忍び寄っている気がしてならない。

2014年7月 ピーク・タイム

ようやく6月が終わった。6月というのは私の仕事上一年でもっとも忙しい月だ。毎年同じだ。なぜ6月が忙しいか・・・元をたどれば4月始まりと言う我が国の会計年度に由来する。

私の今の主な活動は中堅社員向けの教育研修で 窓口となるのは企業の人事部や研修部という部署である。当然のことながら 人事部や研修部は4月から5月半ばまで新入社員研修で多忙を極める。この時期が過ぎたころに それでは次は中堅社員の研修をという話になり 私の出番となるのだ。研修と言うと秋あたりがよさそうだが 少なくとも私の研修はずっと6月が繁忙期である。

私の場合はワンマンビジネスなので繁忙期の存在はそれほど問題ではない。忙しい時に働き 暇なときに休めばよい話であり こなせないほどに仕事が集中すれば日程をずらしてもらうしかない。確かにこの時期に海外出張や長期の国内出張を入れることは不可能だが 事前に分かっているので何とか対応できる。

しかしこれがそれなりの組織ビジネスとなると超大変に違いない。たとえば新入社員向けの研修ビジネスをメインにする企業。いったいどうやって人手を管理するのだろうか。この4月、5月で収入のかなりを稼がねばならないのだが 時期が過ぎると人余り状態になる。

たとえば卒業式/入社式/入学式に必要となるスーツ/礼服のメーカー。おそらくはこのピーク・タイムに向けて布地の仕入れや縫製工場の手配や職人の手配などが必要になるだろう。しかしピークを過ぎれば後は暇になるので それ以外の時期は人も機械も遊ぶことになる。

ピーク・タイムの存在というのはそれ自身が非効率の源となる。逆に言えばピーク・タイムを失くせばそれだけ効率的になる。ピーク・タイムが存在するビジネスでは このピークの分散というのが経営成功のポイントになるのだ。しかしそれにしても 日本の場合 この国の会計年度の硬直性が様々なビジネスにピーク・タイムを強い 経営の非効率化の源になっている気がしてならない。

米国の場合 国の会計年度の始まりは10月だが 民間企業の会計年度は1月から始まるところが多い。ちなみに大学の入学は1月か9月 卒業式は12月か5月が一般的だ。要はかなり柔軟なのだ。そしてこの柔軟さが国全体の効率化を生み出している気がしてならない。少なくとも邪魔はしていない。

東大が秋季入学を検討している時に このコラムで入学時期を春か秋かと議論していること自体が硬直的であって 春でも秋でもよいように セメスター(四半期)ごとの運営体制を強化すべきだと提案したことがある。

四季折々の季節感を否定するわけではないが もっと「いつでもOK」的な通年発想があってもよいのではなかろうか。

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