過去のひと言


2017年6月 オーバーブッキング

先日 福岡から羽田行きの全日空便に乗った。日曜の夜の便だ。搭乗口の近くで時間をつぶしていると 5席のオーバーブッキングが発生したので協力してくれないかとのアナウンスがあった。アナウンスによると 協力してくれれば一時間後の便を手配し 1万円の謝礼を支払うという。時間に余裕のある人や羽田からの交通に心配のない人にとっては悪くない条件だ。様子を伺っていると どうやらすぐに協力者が現れ 問題は解決したらしい。

しかし オーバーブッキングによるユナイテッド航空の乗客引きずり降ろし事件が記憶に新しいだけに 何の遠慮もなしに堂々と「オーバーブッキングだ」というアナウンスがなされたのには違和感がある。これは私の想像だが 「ある程度の確率で現れない乗客がいるのだから その分を見込んで余分に予約を受けるのは当然のこと。乗りたい人がいるのに空席のまま飛行機を飛ばすのは 顧客サービスにならないし コストアップの要因にもなる。オーバーブッキングはむしろ顧客サービスにつながるのだ」とでも考えているのだろう。これがLCCなら分からないでもないが 正規料金で片道4万3千円するフライトの話しとなるといかがだろうか。ちなみに 全日空では昨年5351席のオーバーブッキング(不足座席)が発生したという。もちろん日航もオーバーブッキングをしているが 全日空の1/3程度である。

もう一つ驚いたのは 5席という数だ。予約したのに現れない人がいたかもしれないことを考えると 予約受付では5席以上のオーバーブッキングということになる。なぜこんなに大きな数になるのだろうか。オーバーブッキングの席数は過去の実績に基づいた厳密な分析結果によるものだと思っていたが ここまで狂うのであれば まともな分析が行われているかどうか疑わしい。

更にもう一つ「あれっ」と思ったのは 日本の国内便でも 予約はできたが座席指定ができなかった乗客がそんなにいるという驚きだ。たしかに海外の航空会社の場合 たとえ予約しても最後の瞬間まで座席指定ができないという場合がよくある。また ユナイテッドの場合には 座っていた客を引きずり降ろしたので 座席指定を受けたにせよ それは座席を保証したものでないということになる。もしかすると こちらの方が航空会社の世界の常識で 日本の航空会社が世界の常識に近づいているのかもしれない。

以前 家族5人でハワイ島コナからオアフ島ホノルルにLCCで行った時のこと 「オーバーブッキングが発生したので くじ引きで2名に飛行機を翌日便に変更してもらうことになる」というアナウンスに出くわした。そして 本当にくじ引きで2名が呼び出された。しかも そのうちの一人は オーストラリアからの旅行者グループ数人のうちの一人。その一人だけ翌日の便に乗ってくれという血も涙もない話だ。猛烈な抗議が行われる中 いったいどうなるのかと私は横で聞き耳を立てていた。結局 乗客の中に ホノルルは経由地で 最終目的地が他の島だったカップルがいて その二人がその便をキャンセルし 最終目的地に直接行く別便をアレンジしてもらうことになった。めでたしめでたしの結果だったが 限られた観光日程の中でこんなことがおきるなどぞっとした経験だった。

その時に私が得た教訓は「海外の国内便ではLCCに乗ってはいけない」というものだった。しかし LCCではないユナイテッドの米国国内便で乗客引きずり降ろし事件が発生して この教訓は「日程に余裕がない時には 海外の国内便はビジネスクラスにすべし」に変更しなければならなくなった。今回 オーバーブッキングのアナウンスを聞きながら いつか この教訓を日本の国内便にまで広げる必要が出てくるのだろうかと心配になった。すこしずつ日本の良さが失われていく。

2017年5月 テスラ快走

アメリカのEVメーカー テスラ(Tesla)の快進撃が続いている。4月には 時価総額で 日産 フォード GMを抜いた。2016年通期で7億7千万ドルの赤字にもかかわらずだ。

テスラの第一号車は2008年のロードスター。電気自動車初のスポーツカーとして評判を呼んだ。10数万ドルの車だったが あっという間に完売。とはいっても年間販売台数が数百台の話しで 全体として見ればニッチの世界 物好きなお金持ちの世界の話しと見られていた。しかも車体ベースはロータスのものだったので 完全に自前だったわけではない。

ところが その後 モデルS(セダン) そして モデルX(SUV) と次々に新モデルを発表していった。これらは航続距離で450~570キロ。一回の充電・給油で走る距離は燃費の悪い大型アメ車(ガソリン車)よりもよい。しかもオートパイロット機能付きで、ソフトは自動で更新される。帰納だけではなく モデルXのガルウィングのドアなど実にクールなスタイルだ。ただし 値段的に言えばすべて10万ドルクラスであり 庶民にはなかなか手が出る代物ではなかった。ニッチとは言わないまでも 多くの人にとってはまだ高値の花だった。

ところが 昨年3月 ついにモデル3の予約販売が始まった。テスラ始まって以来 3万5千ドルの大衆モデルである。予約販売と言っても あくまでも予約の受付であり 納車は早くても1年半後 今年の後半になるらしい。しかも この予約には1000ドル(日本では15万円)の予約金が必要になる。キャンセルの場合 全額返金の規定にはなっているものの 1千億円近い赤字を出している会社のクルマで しかも1年半後の納車である。

実はこれが大人気で あっという間に40万人近い予約が集まったという。予約金だけで4億ドルということになる。この結果を見て日本の自動車メーカーはようやく「何かが違う」ということに気づいたらしい。

テスラの創立者は イーロン・マスク。ちなみに 彼はトランプ大統領と同じく ペンシルベニア大学ウォートンスクールで学士号を取得している。まったくの余談だが 私もこのウォートンスクールで修士を取得しました。とはいえ 彼は根っからの起業家で 起業したIT会社の売却で数億ドルを手に入れた後 決済会社ペイパルを立ち上げ その後 ロケット開発会社 スペースXを共同で立ち上げ テスラモーターズに投資することになった。

スペースX社は 通常は捨ててしまう第一弾の燃料ロケット部分を回収することに成功したロケット開発企業である。お役目を果たしたロケットが誘導され回収船の上に無事着陸する様子は全世界で放映された。本当に驚くばかりで 現実とは思えなかった。これで何十億円という費用の節約になるらしく 今後のロケットは皆こうなるだろうと言われている。

本題にもどって なぜテスラがこれほど人気があるのか その理由にはこれらすべてが絡んでいる。つまり イーロン・マスクが“実現”してきたアメリカン・ドリームである。皆の目をくぎ付けにしたロケット自動回収の実現やテスラの自動運転機能・・・。テスラを買おうというモチベーションの半分は このイーロン・マスクの未来を実現する力への共感や応援だと思う。

残りの半分は テスラそのもののクルマとしての魅力だ。テスラはエコロジーだけを売りにしてきた今迄のEVとはまったく違うのだ。モーターの持つトルク性能を活かした走り オートパイロット機能はあたりまえ しかも 35,000ドルのモデル3でさえ345キロの航続距離(日産リーフで280キロ)。

テスラのスーパーチャージャー(急速充電設備)が日本ではまだ普及していないのが残念だが もし私がカリフォルニアに住んでいれば あるいは日本でも家の近くにスーパーチャージャーがあれば 次のクルマは100% テスラだろう。

ところで トヨタの燃料電池車ミライはどうなったのだろうか。2014年末に販売して未だにこのモデルだけというのはどういうことなのだろうか。この実用性に欠ける4人乗りモデルの売りは“燃料電池”というだけだ。残念なことに“クルマ”としての魅力は聞こえてこない。最近ようやく トヨタとホンダが手を組み 11社で水素ステーション開発の共同会社を設立というニュースを新聞で見たが よく読むと年内に新会社を設立予定とある。なんと半年以上先の話しである。アメリカ流に言えば カレンダーを見て仕事をしているトヨタと時計を見て仕事をしているテスラの違いだろうか。トヨタのベンチャー精神はどこにいったのだろうか。

2017年4月 ウルトラマラソン挑戦

4月24日(日) チャレンジ富士五湖ウルトラマラソン(100km)の部に出場した。一生に一度くらい100キロを走ってみようか これ以上歳をとると難しいかもしれないが今の内なら大丈夫だろうという気持ちだった。フルマラソンを必死のスピードで走るよりも100キロをゆっくり走る方が楽なのではないかという甘い気持ちも実はあった。完走できるかどうかは問題ではなく どのくらいのタイムで走れるだろうかを考えていた。

しかし大会一週間前 コースの高低状況と関門閉鎖時間をじっくりと調べ直し ネット情報を見ているうちに その甘い気持ちの半分は吹っ飛んでしまった。高低差を見れば かなりのアップダウンが幾つもありそうなのだ。富士山の麓だから当たり前といえば当たり前。しかし以前経験した 河口湖と西湖の湖畔を走る富士山マラソン(河口湖マラソン)の時には 河口湖と西湖をつなぐ一カ所を除いてアップダウンはなかった。この印象が頭の中に残っていたのだ。

交通規制などの関係上 フルマラソンの場合も同じだが 途中で何カ所かの関門があり 関門ごとに通過時刻が定められている。マラソンの場合 ゴール制限時間は6時間か6時間半で それに見合った関門閉鎖時間になっている。4時間前後で走る私にとって 関門ごとの閉鎖時間などまったく気にしたことはない。しかし 100キロマラソンはちがった。

富士五湖チャレンジの100キロマラソンでは ゴール制限時間は14時間で 途中6カ所に関門が儲けられている。問題は前半の関門制限時間の厳しさだ。最初の湖 山中湖からの戻り道はずっと登り坂になっている。にもかかわらず関門閉鎖時間が結構厳しい。歯が立たないというわけではなく 油断できない。結局 この前半40キロくらいでどれだけ脚力を維持できるかが勝負の分かれ目となる。

しかし あろうことか このしっかり走らなければならない区間で溝のブロック蓋の隙間に足をつっかけ転倒してしまった。交通規制がないので 歩道や溝のブロック蓋の上を走ることが多いのだ。30数キロの地点だった。幸いなことに足は大丈夫だったのでそのまま起き上がって走り続けることができた。周りを集団で走っていた人が皆心配し暖かく気遣ってくれた。・・・本当にありがとうございました。大事に至りませんでした。

河口湖を走り 西湖を超えた後 体力的に かつ精神的にもっともしんどかったのが最後の精進湖の端に設けられた第4関門(72.2キロ)の手前数キロの区間だった。この時点で 転倒した時にかばってついた右手の甲が紫色のグローブみたいに腫れ上がっていた。幸い指は動くので折れてはいないようだ。しかし右肩も強打していたため 痛くて思い切り腕を振れない。そんな中 ふと「何のために走っているのだろうか」という疑問が頭をよぎった。過去20回のフルマラソンでそんなことを思ったことなど一度もない。そして その関門の少し手前の長い下り坂を走りながら 帰りには この長い登り坂を上らねばならないのか と考えたところでほぼ切れた。この関門到達でリタイアしようと決意したのだ。気持ちの中で人生初めてのリタイア宣言だ。特にどこがものすごく痛いというのではないが ともかく体力の限界で走る気力が湧いてこない。

心の中でリタイア宣言した後 次の区間はどうなっているのかと念のためにポケットのメモをチェックした。・・・えっ何と次はサービス区間になっているではないか。次の区間約8.4キロを1時間半で走ればクリアできるのだ。これは出血大サービス。何度も間違っていないかチェックした。これだったら 登り坂はすべて歩いても大丈夫だ。これで生き返った。

制限時刻18:45のところ 18:25にゴール。もうすぐ夕暮れ うっすらと寒さを感じる時間になっていた。朝4時45分暗闇の中をスタートして13時間40分経っていた。久しぶりに自分を誉めてあげたいと思った。

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