過去のひと言
2015年9月 オリンピック・エンブレムに求められるもの
あっという間に猛暑の8月が終わった。暑い中 仕事に追われっぱなしで このHPの8月コラムもすっぽかしてしまった。さて久しぶりに何か書こうかと思ってパソコンに向かうと やはり浮かんできたのはオリンピックのエンブレム問題だ。
オリンピックのエンブレム最終案は エンブレムがいかにあるべきかとの議論がないまま盗用疑惑が先行し そして 結局 最終案が盗用かどうかというのとは直接関係のない理由で廃案になってしまった。表面的には佐野氏からの採用辞退という形での決着だったようだが もちろん佐野氏はこのエンブレム(最終案)のデザイン盗用を否定しているし 組織委員会もまたこのエンブレムの盗用については否定的な見解を出したままだ。実はこの点は私も同じ意見だ。事の始まりはベルギーの劇場ロゴのデザイナーからの訴えだが これを盗用というならば 世の中のデザインのかなりが盗用になってしまうのではないだろうかと私は思う。
結局 佐野氏を追い詰めたのは 採用されたオリンピック・エンブレム最終案以外での佐野氏への盗用疑惑や不信感の高まりだった。例えば サントリーのトートバッグ。このトートバッグ・プレゼントは地下鉄車内のポスターでも派手に宣伝されたもので 多くの人の注目を集めた広告だった。ここで明らかになったデザイン盗用はたとえスタッフのやったことといえども 佐野氏のデザイン管理の甘さやパクリ意識の甘さを浮き彫りにした。
また佐野氏の当初のオリンピック・エンブレム応募案はヤン・チヒョルト展のポスターと酷似していた。これはベルギーの劇場ロゴと異なり 私が見てもそっくりに見える。もちろん 佐野氏の1964年東京オリンピックの日の丸をイメージしたというコンセプト説明では 最終案の説明は出来ても この応募案の説明は出来ない。要は 物まねっぽい応募案を元に徐々に手を加えて最終案ができあがり それに合わせてコンセプトを後付したという感じはゆがめない。さらに写真のコピーライト表示部分を削ってコピペして応募に使うなど 学生レベルのパクリだ。
しかしそれでも ベルギーの劇場ロゴ・デザイナーの訴えを除けば 最終案そのものについての盗用議論はない。つまり ベルギー劇場ロゴを除いて この最終案の独創性は否定されていない。結局のところ 今の議論は 佐野氏は過去にこのような盗作疑惑を起こしてきた人だから この最終案も独創的とは言えないだろうというロジックに聞こえる。
しかし 例えば ヤン・チヒョルト展のポスターを真似て第一案を作り それを元に修正を加えて出来上がった最終案は独創的ではないと言い切れるだろうか。もちろん 真似したものが応募案というのは問題ではあるものの それと最終案の独創性は別物だと私は思う。テレビでは今回の件でデザインとコンセプトは切り離せないものだということが分かったという専門家がいた。しかし コンセプトがデザインの源になったのか後付なのかどうやったら分かると言うのだろうか。
私に言わせれば 今回のオリンピック・エンブレム(最終案)はパクリだとは思えない。十分に独創性を備えていると思う。しかし 東京オリンピックのデザインに必要なのは 独創性やデザイン性を超えた 例えば 世界に誇る日本国民像をイメージさせるような象徴性だと思う。佐野氏のデザインにも 佐野氏にも 組織委員会にも エンブレム選考過程にも この象徴性を創り上げようとするエネルギーを感じない。
2015年7月 異常気象が異常でなくなる日
暑い。本当に暑い。35度を超える日を猛暑日と制定したのは2007年。しかしそれ以前は猛暑日ではなく酷暑日と称していたらしい。個人的には酷暑日の方がふさわしい気がするけれども 40度の日のためにとっておこうとしたのかもしれない。これは異常気象だ。しかしもうこの状況を「異常」と言えない段階に来ているのが怖い。
昨年発表されたIPCCの評価報告書はこういう表現から始まっている。「人類が現在の気候変動に多大の影響をもたらしているのは明白であり 特に最近の人類による温暖化ガス排出は過去に例を見ない規模で進んでいる。すでにこの気候変動は人類と自然環境システムに広範かつ大きな影響を与えている。」
このIPCC報告書の概要を記した環境省の解説には日本の例が交えて説明されており その分 身につまされる。(2014年環境省 IPCC第5次評価報告書の概要 –第1作業部会-)
この環境省解説のグラフを見ると日本の平均気温は世界平均を上回る速度で上昇しており 年間猛暑日は明瞭な増加傾向にある。しかも降水量は年間の変動幅が徐々に拡大している。つまり集中豪雨の回数も明瞭な増加傾向にある。21世紀末には集中豪雨(1時間降水量50ミリ)の発生回数は現在の2.5倍になると見込まれている。1時間50ミリの雨量とは 地下街に雨水が流れ込み マンホールから水が噴出し 土石流などの災害が発生するレベルという。
日本近海は表層でも深海でも 世界平均を上回る速度で海洋温度が上昇しており かつ酸性化が進んでいる。海は人為起源の二酸化炭素の30%を吸収しているのだ。高い海水温と酸性化が進むとサンゴは死ぬ。このままでは日本沿岸の熱帯・亜熱帯サンゴ礁の分布に適する海域は2020~2030年代には半減し 2030~40年代には消失すると予想されている。今 辺野古埋め立てでサンゴへの影響が懸念されているけれども もしかすると数十年もしないうちにこの議論すら意味がなくなる可能性がある。
世界の平均海面水位は上昇を続けており RCP8.5(元も温暖化が進んだ場合のシナリオ)では今世紀末までに45~82センチの海面上昇。RCP2.6(最も温暖化を抑えたシナリオ)でも26~55センチの上昇が予想されている。ちなみに59センチ上昇すると、東京湾、大阪湾、伊勢湾の海抜ゼロメートル地域は今より5割増大する。
集中豪雨、洪水、土石流、農作物不作、漁業不振、感染症発生・・・人類は地球にあと何年生きられるのだろうか。まだまだ暑い日が続きそうだ。
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