過去のひと言


2018年3月その2 まずは「働き方改革」に見る厚労省のインチキ

「裁量労働制」の問題をきっかけに働き方改革法案がドタバタ状態を呈した。とてもよいことだ。なぜなら これによりこの法案内容に多くの人たちの関心が集まるようになったからだ。私自身 この「裁量労働制」という耳慣れない言葉を聞くまで この法案のニュースは聞き流し状態だった。

裁量労働制とは 「個人の裁量で仕事時間等を管理・調節できる」ようなものらしい。しかし当然 与えられる仕事の内容や量に対しては個人の裁量は効かない。裁量労働制という名のもとに仕事をどさどさと与えられる状況が目に浮かぶようだ。一度でも会社勤務を経験した人から見ればこんな状況が生まれるのはすぐに察しが付く。野村不動産のような世の中に知られた会社でもインチキ解釈して 営業マンを裁量労働者に仕立て上げ 正当な残業代を払わずに遅くまで仕事をさせるのだ。名も知られていない中堅企業など推して知るべし。

この裁量労働制は 霞が関役人(厚労省)のインチキ・データをきっかけに働き方改革法案から削除されるようになった。当然だ。それにしても なぜこんな制度を推し進めようとしたのだろうか。ビジネスの現場を知らない無知な政治家が頭の中だけで考えて裁量労働制の対象拡大を推し進めようとしたのは理解できる。政治家なんてそんなものだろう。民間企業の経営者たちが経営者の立場になった途端に昔の平社員時代の苦労を忘れてしまうのも そんなものだろう。所詮彼らは競争社会の勝ち組なのだ。過剰労働で健康を崩した同僚を思いやる余裕などないに違いない。

しかし 過重労働の最大の犠牲者ともいえる霞が関の役人がデータをインチキしてまで裁量労働制を推し進めようとするのはとても理解できない。働き方改革の必要性をもっとも痛感しているのは霞が関で働いている役人ではないのか・・・と考えた時にふとある思いが頭をよぎった。もしかしたら このインチキ・データは霞が関役人の高等テクニックかもしれない。もしかしたら わざと総理周辺にこのインチキ・データを渡して 野党に追及のネタを提供したのかもしれない。

さて この働き方改革では「高度プロフェッショナル制度」なるものも登場する。高度プロフェッショナルというのは研究開発・金融・コンサルタントといった高度な専門知識を必要とする業務につく年収1,075万円以上の労働者を指すらしい。このような新造語を耳にするとどうも疑り深くなる。そもそも本当に高度プロフェッショナルな人であれば そんな年収ですまないだろうし そんな制度で守ってもらう必要もないはずだ。「みなし残業制度」などがある中で 今なぜこのような新制度が必要なのだろうか。

うがった見方をすれば おそらくはこれは「高度とは言えないどっちつかずの専門職」を対象にした賃金抑制策といったところだろう。霞が関的に考えてみれば 「会社の後ろ盾を期待するどっちつかず的なプロフェッショナル人間などこの法案の生贄的に差し出してもよいではないか。その中に本当に高度プロフェッショナルを目指す人間がいるなら もっと努力して這い上がって 会社をあてにすることのない真のプロフェッショナルが生まれるかもしれない」ということかもしれない。もし厚労省の役人の誰かがこうした意図を隠し持っていたとしたら霞が関もまんざら捨てたものではない・・・と 先週この原稿を書いている時に思った。

ところが今週になって 「働き方改革」の話を過去のものにしてしまうような財務省の決裁文書改ざん事件が発覚した。正直 厚労省のインチキには役人の苦労の形跡が見えた。財務省の改ざんは 苦労をすべて地方財務局のノンキャリに押し付けた 財務省本省キャリア組の傲慢に満ちた悪徳行為である。国民の誰の利益にもならない 国民の目を欺いた 明らかに自らの保身のみを目的とした許し難い行為だ。

個人的には この財務省事件で安倍政権の目玉「働き方改革」も空中分解する可能性さえでてきたのではないかと考える。どうやら霞が関に言及する場合には 財務省と財務省以外とに分けて考える必要があるらしい。

2018年3月 流氷そして雪まつり

先月の初め 北海道に旅行してきた。実は数年前 流氷を見ようと 流氷接岸時期を目指して冬の知床を訪れたことがある。その日は風雪が厳しく 出発日の札幌行きはすべて運休。たまたま釧路行きだった我々の飛行機は何とか運休を免れたものの 空港に着くと寒風の地吹雪だった。空からではなく地から粉雪が舞い上がり行く手をかすませる。初めての冬の道東 北の国の飾りのない出迎えだった。ただ その強い風のおかげで知床到着の夜 その年初めて 流氷が接岸することになる。翌朝 知床の海に眼をやると 海と陸の境を消す一面の大雪原が広がっていた。

一方 強風は一日中一晩中 止むことがなかった。知床のゴジラ岩の前で予定されていた夜のオーロラ祭りも 翌朝予定していた流氷の上を歩く「流氷ウォーク・ツアー」もすべて中止。楽しみにしていた網走出発の「観光砕氷船オーロラ号」まで出港中止になってしまった。

そして今回 心残りだった流氷砕氷船に再トライすることにした。考えてみれば当たり前だが 流氷がしっかりと接岸すればいかに砕氷船といえども出港に支障を来すに違いない。つまり流氷接岸と砕氷船出航はもしかすると相いれないものかもしれない。というわけで 今年は流氷接岸時期をはずし ちょっと早めに札幌の雪まつりにあわせて紋別を訪れることにした。結果としてこのタイミングでの流氷見物は大正解だった。

砕氷船ガリンコ号で10分も沖に出ると氷の海原が一面に広がる。さすがに甲板は寒い。万が一海に落ちると5分と生きていけないだろう。ふとテレビの「北の国から」でトド撃ちに出かけ遭難したトド(唐十郎)が流氷の上を渡り歩くシーンを思い出した。テレビの世界とは言え役者は大変だ。夜の羅臼の流氷シーンなのでマイナス15度以下に違いない。さて 船は小刻みな後進・前進を繰り返しながら氷を砕いて進んでいく。この時のガリガリとなる音と振動とちょっとした船体の揺れが我々を喜ばせてくれる。ガリンコ号のウリだ。

寒すぎるのか沖の空には海鳥もいない。流氷が海を覆う状況では餌も見つからないのだろう。しかし目を凝らすと流氷のところどころにオジロワシが見える。流氷の大きな塊の上でまるで孤高の哲学者のように周りを睥睨している。船が近づくと 氷の上にたたずむ哲学者は突然大きなドラゴンにでも変身するかのように 体の三倍はあろうかと思われる翼を広げ飛び立っていく。北極圏の氷河と比べればスケールの小さい話だろうが この感動が東京から2、3時間で経験できるのだから 日本も広い。 

流氷を見た後 札幌に戻り 夜の雪祭りを楽しんだ。昼でもマイナス10度の紋別と比べると 札幌は暖かい。もしかするとそれは気温だけの差ではないのかもしれない。音までも吸い込んでしまうような自然の偉大さを見せつける流氷に対し 札幌の雪まつりは生命の音を外に向かって吐き出す動の祭りだ。大通公園の雪像はライトアップで輝き ステージには若いアーティストたちの声が響き渡り 雪像に映るプロジェクションマッピングは見る人の目から雪を忘れさせる。雪像の脇を埋め尽くす屋台は暖を求める観光客でごった返している。

しかし札幌雪祭りの私のお薦めはテレビ塔だ。夜のテレビ塔の展望階に登ると大通公園に立ち並ぶ雪像のライトアップが一望できる。雪をかぶった都会のビルの中に 声を無くした光の群れが整然と浮かび上がる。光と音の祭典を消音モードで見る感じだ。雲の上から人間の祭りを眺め 悦に入っている神さまもこんな気分かもしれない。札幌の雪まつりを見に行くならば 夜に限る。そして夜のテレビ塔から見る消音モードの夜景は一見の価値がある。

2018年2月その2 今どきの米国CATV事情

米国には4大ネットワークの地上波デジタル放送(地デジ)があるが 現実にはテレビ視聴のほとんどが有料のCATVか衛星TVだ。特に都会ではテレビと言えば有料CATVが基本で アメリカで販売されるTVにはCATV用のチューナーが内蔵されているという。こんなの常識と思っていたが どうやら今この常識が変化しているらしい。

先日 ホノルル在住の娘と話したところ 今迄契約していた有料CATVを解約したというのだ。その代りに アマゾンのプライム会員になり かつ Netflixにも加入したという。CATVが月に数十ドルしていたのに対し アマゾン・プライムやNetflixはそれぞれ月10ドルくらいなので お金的に見てもそこそこの節約になるという。

CATVの契約を辞めるという事はいわゆるテレビ放送を見られなくなるという事 つまりリアルタイムで番組を見られなくなるという事だ。それでいいのかと聞くと ニュース番組などでは多少の不便は出るかもしれないが ドラマなどの通常番組はまったく問題がない。プライム・ビデオとNetflixで十分 というか むしろ 録画なしで好きな時に好きな場所で(スマホなどで)視聴できるのでその方が便利だという。おそらくニュースもネットで十分だろうとの話だった。

米国では 私の娘のような有料CATVの契約解除者のことを「Cord Cutter」と呼び これが一般的な風潮となってきているらしい。実際に 米国では 2012年に52.60百万人いた主要CATV加入者数は毎年減り続け 2017年第一四半期には48.61百万人になった。一方で Netflix加入者数は着実に増加を続け 2012年に23.41百万人だった加入者数は2017年第一四半期には50.85百万人になっている。今やNetflix加入者数がCATV加入者数を逆転しているのだ。

背景にあるのは動画視聴スタイルの大きな変化だ。今や スポーツや海外番組だけではなく 多くのテレビ番組がストリーミングで提供されるようになっている。「好きな番組をいつでもどこでも視聴できる」時代になったのだ。Netflixでは50百万人を超す加入者数の視聴パターンを分析した上で 加入者にアピールする独自のドラマや映画まで製作している。これは CATVのみならず テレビのネットワーク局としても大きな脅威である。

この傾向は日本でも同じ。ある資料によれば 日本では20歳代のTV番組視聴時間は60歳代のそれの6割以下。年代が若くなるにつれ視聴時間は確実に短くなっている。もっと重要なのは 全ての世代で TV番組視聴時間が3年前と比べ6割近くに減少している。日本でも米国と同様 視聴者は面白くもない番組に時間をとられたくないし 決められた時間にTVの前に座るのも嫌だし 録画などの面倒な作業もやりたくなければ 決まった場所で見るのも嫌なのだ。

個人的な話をすれば アマゾンのプライム会員になりプライム・ビデオを利用しているものの 会員になったきっかけは配送の速さだ。プライム・ミュージックやプライム・リーディングのサービスなどつい最近まで知らなかった。またキンドルは持っているものの メインは未だに紙の本であり 今でも紙の新聞を購読している。SIMフリーになったスマホはありがたいしiphoneのカメラ機能もかなり使いこなせるようになったが ほとんど使わない固定電話もニコンのミラーレス一眼レフも手放せない。最近は 記念版やコンサート版に限定しているものの CDも時々は購入している。どうやら 個人的には 新旧の両方に足を踏み込んでいるらしい。幸いなのは旧時代に両足をとられているわけではなく 子供や孫とも それなりにコミュニケーションできるくらいには新時代に生きているということ。大変だと言えば大変だし 面白いと言えば面白い。

2018年2月 「陸王」ランニングシューズの奥深さ

若干古くて恐縮ですが マラソンが趣味の私にとって 昨年大ヒットしたテレビ番組「陸王」は見逃せない面白さだった。老舗の足袋屋さんが会社の起死回生を期して足袋型のマラソンシューズの開発に乗り出すという話だ。番組名の「陸王」はその靴の名前。そもそも ストックホルムオリンピック(1912年)のマラソンに出場した金栗選手 ベルリンオリンピック(1936年)のマラソンで金メダルを獲得した孫選手は足袋でレースを走っている。アシックスが1953年に発売した最初のマラソンシューズも座敷足袋を改良した「マラソン足袋」だった。というわけで 足袋型のマラソンシューズという発想は決して珍しいものではない。

12月の「陸王」の最終回を見て 私もこの足袋型シューズを試したくなった。テレビではミズノが協力しており ミズノからは放映終了とともに「陸王記念モデル」(足袋型マラソンシューズ)が限定発売されることになった。価格は6万円。これはちょっと手が出る値段ではない。調べてみると 別の2社から足袋型のランニングシューズが発売されていることが分かった。この2社は「陸王」の撮影にも協力している。陸王の影響で品薄状態が続く中 1月初めに その内の一社の足袋型ランニングシューズを手に入れた。

ちなみに 私は今まで10年間 ハーフやフルマラソンではずっとアシックスの靴(主にゲルフェザー)を愛用してきた。このブランドはマラソン4時間レベルの中級者ランナーを対象にした評判の高いモデルだ。そして今回 この足袋型モデルでお試しランしてみて 改めてシューズ開発の奥深さを知ることになった。

「陸王」シューズの最大の売りは親指と他の指が分かれた足袋型の形だ。確かに 履いてみると 普通の靴型よりは足袋型の方が指にしっくりと来る。小指を含めて全部の指を使って走る感覚が実感できる。突き詰めれば 足袋型よりは五本指型の靴の方がもっとしっくりくるに違いない。実際 五本指のランニングシューズもあって 高い評判を得ているらしい。理想はやはり人間の足そのままの形なのだろう。

テレビでは 「陸王」開発の最大の技術ポイントは靴底のソールに「シルクレイ」という新素材(架空)を採用したことだった。これはまさにマラソンシューズ最大の開発ポイントがソールであることを言い当てていた。マラソンシューズのソールは弾力性と強度と軽さを兼ね備えていなければならない。しかもこれは材料だけではなく構造の問題でもある。実際に 私が従来履いているアシックスの靴はソールに「ゲル」と呼ばれる特殊素材を採用しているのがウリだった。残念ながら 購入した足袋型シューズのソールは軽いのだが固すぎて柔軟性に欠けていた。やはりマラソンシューズはソールが第一だった。

「陸王」開発の第二の技術ポイントは繊維素材。テレビでは やっと見つけた繊維メーカーをライバル会社に横取りされ 必死になって新たなメーカーを探すというという山場がある。実は テレビを見ていて なぜそんなに繊維が重要なのかよくわからなかった。購入した足袋型シューズを履いてみると 足袋型であるがゆえに 靴の中で指がよく動いてくれる。これは喜ばしいことなのだが そのために靴の繊維が固いと指が痛くなるのだ。靴型もそうだが 足袋型のランニングシューズはより一層 繊維に柔軟性が求められる。普段当たり前だろうと思ってアシックスを履いていたが こうして違う型のシューズを履いてみると アシックスの繊維素材の柔軟性がよく分かった。

結論から言えば テレビの「陸王」は実によくできていた。確かに目を引くのは足袋型の形だが 開発のポイントがソール そして 繊維であることはその通りだった。私の購入した足袋型ランニングシューズは残念ながらこの二つの開発ポイントで私のニーズを満たしてくれなかった。長年かけて培ったアシックスやミズノのノウハウとはこの辺にあるのだろう。なかなかに奥が深い。アシックスやミズノの廉価版「陸王」の登場に期待したい。

2018年1月 アメリカ暫定予算切れ

私の次女はアメリカ人と国際結婚し 8年近く前からホノルルに在住している。旦那は海軍に勤務。軍人ではないので軍属という形になる。パールハーバーで軍艦などの管理・装備近代化などに携わっているという。一応アメリカ政府の国家公務員である。首切りや合理化が日常茶飯事のアメリカにおいて 義理の親としてはまあ一安心ということになる。

ところがこの数年 恒例行事化してきたのが 米国の暫定予算切れに伴う政府機関の一部閉鎖騒動である。今年も1月20日から土日を含む3日間 暫定予算切れのために一部政府機関が封鎖された。彼の職場もこの対象となった。この期間 給与は支払われずに自宅待機となる。

4年前は1週間以上閉鎖となる事態も起きた。この期間 ハワイの政府管轄の観光地は軒並み閉鎖になった。有名なパールハーバーの戦艦ミズーリもハワイ島のキラウエア火山施設もすべて閉鎖となった。しかしこの時は 民主党オバマ政権下で議会上下院の過半数を共和党が握るというねじれ状態での出来事だった。今回は大統領も上下院もすべて共和党が握るという状況の中で予算が成立されなかった。これは異常事態だ。

今回 民主党は 子供の時に親に連れられてやってきた不法移民の強制送還免除措置(DACA)の恒久化と低所得世帯の子供向け医療保険(CHIP)が継続されない限り いかなる予算案にも同意しないという方針を示した。DACAの問題は多く報じられているのでご存知の方も多いだろう。しかし CHIPに関しては今回の事が起きるまで私は全く知らなかった。大和総研グループ ニューヨークセンター資料によれば
 CHIP(Children’s Health Insurance Program)は低所得世帯の19歳以下の子供に対し無料または低コストの医療保険を提供する公的医療保険制度。無保険の子供を減らすことを目的に 民主党クリントン政権下で1997年に設立された。
 資金は連邦政府と州が共同でCHIPに拠出している。州が連邦規則に従って独自のCHIPを立案・運営しており 州のメディケイド(低所得者向け公的医療制度)と連携している。
 CHIPは設立されて以来 あらゆる面においてプラスの効果を表しており 成功を収めていると評価されている。加入推進活動も成果をあげた。CHIPによる医療サービス利用は増加し 低所得者の医療費に対する経済的負担は軽減された。CHIPは低所得世帯の経済的困難時における医療保険のセーフティネットとなっている。
要は このCHIPは皆が望み成立した低所得者層向けの救済施策なのだ。しかし 昨年9月に政府によるCHIPへの資金拠出の期限が切れると 議会共和党は減税法案の成立と引き換えに再認可を拒んできた。そして トランプ大統領はDACAの廃止を主張して譲ろうとしない。

CHIPは低所得者層の子供のためのものであり DACAは不法移民の子供のためのものである。共通するのは「子供」だ。議会共和党とトランプは「子供」というアメリカの未来を担保に 金持ちと大企業を遇する減税予算を通そうとしている。

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