過去のひと言


2020年8月 人生最後の一台

60歳半ばを過ぎると この買い物が人生最後かもしれないというものがある。たとえば自分の住む家などだ。先週 人生最後の買い物となるだろう自転車を購入した。

数年前 長い間所有していた自転車を処分した。なるべく歩くようにしているし バスも頻繁にある。ちょっと離れる場所なら車で出かける。というわけで自転車とは縁遠くなっていた。

一方で オンライン研修をオフィスで実施するようになり ラップトップやら資料やら重い荷物をオフィスに持っていく機会が多くなった。自宅からオフィスまでは徒歩14分。普通であれば ちょうど散歩によい距離なのだが 暑い盛り 重い荷物を持ってこの距離を歩くのは結構しんどい。汗びっしょりだ。というわけで 改めて自転車を買おうと考えた。オフィスにしろ 自宅マンションにしろ 自転車置き場が不足しているので 買うならば折り畳みだ。

折り畳み自転車は車輪が小さい。車輪が小さいと道路上の障害物に対する安定性が悪くなる。道路上の障害物に関して言えば 自動車でも自転車でも車輪は大きければ大きいほど安定する。大きければちょっとした凸凹を吸収するからだ。したがって 車輪が小さい場合 ちょっとした段差を乗り越える(あるいは 乗り下る)時に自転車のメインフレームにかなり大きな衝撃が加わることになる。これで事故を起こし 半身不随になった例もある。

というわけで 折り畳み自転車ならば やはり信頼できるメーカーが生産しているものに限ると考えた。自転車の場合 ブランド名と作っている会社がまったく別で ブランド会社は単にブランドを貸しているだけという場合も多い。これは不安だ。結局 いろいろと調べた結果 HPで見つけたのが「人生最後の一台に選んだ自転車」という紹介記事が載っていたブロンプトン。

ブロンプトンはすべて英国ロンドン工場のみで生産している正真正銘のメイド・イン・イングランドだ。メイド・イン・イングランド・・・今時そんなものがあるのかと思うほど懐かしい響きだ。何か素朴で昔ながらの職人気質を思い浮かべてしまう。バーバリーだってアクァスキュータムだって今やイギリスとは何のゆかりもないメーカーで作っている時代なのだ。

決めたら 善は急げ。何しろ コロナ時代 通勤電車を避けようと自転車通勤の人が増えているというではないか。しかも 保管しやすい折り畳み自転車はかなりの人気らしい。ブロンプトンを取り扱っているサイクルショップの中でも一番大きそうな渋谷のチェーン店に行った。驚いた。20以上ある陳列棚がほとんど空っぽ。残っているのは人気薄モデルの2台だけだった。店員いわく コロナでブロンプトンのロンドン工場が閉鎖になったという。つまり出荷ゼロの状態なのだ。これは知らなかった。ショック。

しかも驚くことに その状況を察知しためざとい某国人が日本にあるブロンプトンの買占めに走ったという。というわけでお求めの売れ筋モデルはありません。他の店舗にもありませんという。ロンドン工場の再開もめどが立たないのでいつ入荷するかも未定だという。唖然。

帰り道 一応ダメもとで 世田谷区で唯一ブロンプトンを取り扱っている自転車チェーンに寄ってみることにした。店に入ったところ 何と10以上の棚が折りたたんだブロンプトンでいっぱいではないか 思わず笑顔。早速店員に話をすると 何とこの中で売り物は2つだけ 他はすべてスタッフの持ち物だという。棚が空っぽだとみっともないのでスタッフの自転車を並べているとのこと。ガッカリ。

結局 前の店と同じ説明だったのだが 何と売り物の2台のうちの1台が私の求めているモデルだった。聞くところによると 売約済みのものがたまたまキャンセルになったという。ラッキー。色などまったく選択の余地はないが手に入るだけよかった。何しろ 今年中 日本のどこにも在庫がないかもしれないのだ。

一週間後 整備を済ませたピカピカのブロンプトンが納車された。今快適な自転車通勤を楽しんでいる。ちょっとした英国気分である。ショップの方によると ちゃんとメンテをすれば20年は大丈夫という。人生最後の一台に大満足。

2020年7月 オンライン研修始まる

7月中旬 オンライン研修をZoomで2社に実施した。ここではちょっとした感想を述べたい。

結論から言えば 顧客の主催者側(研修担当)の反応としては2社とも「オンラインで全く問題ない」との評価だった。まずは一安心。ただし 講師としての立場から言えば やはり集合研修の方が格段にやりやすいというのが素直な感想だ。

私の研修は15~20名の参加者を対象とするが オンラインでは この人数になると参加者の反応がよみづらい。一人一人の映像が小さくなるからね。これは覚悟していたことだったが それに輪をかけるのがギャラリービュー表示の変化だ。休憩のたびに 当然 ギャラリービューでの参加者表示の配置が変化する。こんな些細なことが講師には結構な影響を与える。つまり 配置の変化により 顔と名前と印象がなかなか一致しないのだ。

集合研修の場合だと 座席の位置が決まっているので たとえ20人の参加者でも この名前の人はどこの席に座っていて 私の質問にこれこれの反応をしていたなどが 脳に総合情報としてしっかりとインプットされる。しかし オンラインで表示配置がちょくちょく変わるとこれが上手くいかないのだ。人間の脳は いろんな情報を関連付け総合情報として処理する能力がずば抜けているのだが 表示配置の変化がこれを阻害するのだ。

蛇足だが オンラインだと口の動きと音声が合わないことがある。映像処理と音声処理が別々に処理されているからだ。コンピュータでは個別の処理は得意だが 情報の統合処理に関しては人間の脳にはかなわない。脳の動きを助けるように Zoomにはギャラリービューの配置をある程度固定化できるようなオプションが欲しい。

さて 私の研修の場合 集合研修ではクラス内で全員の予習解答をその場で添削するので この作業に若干時間がかかる。一方 オンラインの場合 事前に提出した解答の一部しか添削せず 他の解答は後で添削結果を送付する形をとる。したがって 集合研修で4時間45分くらいかかる研修だが オンラインだともっと短い時間で済むだろうと高をくくっていた。しかし 実際は大違い。オンラインも全く同じ時間がかかってしまった。

原因は恐らく丁寧すぎる(?)説明によるものだと思う。オンライン研修の場合 当然参加者にはミュートで参加してもらい 質問がある時や私の質問に答える時に 自分でミュート解除をしてもらう。実際には 私の質問に答える時を除いて 研修中の音声はほとんど私の声だけだ。参加者の反応がつかみづらく しかも聞こえるのが自分の音声だけとなると 分かってもらえているのかどうか不安心理が働く。結果として よく言えば説明が丁寧に 悪く言えば説明過多になる。そして私は音声が途切れないように4時間45分しゃべり続ける。集合研修も終わった後にかなり疲れるが オンライン研修の疲れはその比ではない。喉も眼も疲れる。

ミュートの話が出たついでに言えば これは参加者にもデメリットだと思う。集合研修の場合 質問があればその場で発言するだけなのだが オンラインではそうはいかない。オンラインの場合 参加者は講師と直接顔を合わせていないので講師がどういう性格なのか分かりづらい。したがってそもそも質問がしづらい。その上 質問するには ミュート解除というワンステップがはさまるので余計に質問しづらい。これはどうしようもない。

さて 参加者からでた予想外の反応は 資料が見やすいというものだった。集合研修では資料をプロジェクターでスクリーンに映写する。かなり大きなスクリーンに映すが 場合によっては壁をスクリーン代わりに使用することもある。また参加者の手元の明かりを確保するために真っ暗にはできない。従って よほど高価なレンズを装備したプロジェクターでない限り 見やすさには限度がある。それに比べると オンラインの場合 説明資料が自分のPCにくっきり映る。言われてはじめて気づいたが これは重要かもしれない。特に目がよくない人にはオンラインは楽だろう。

先に 参加者表示の配置が変わるので 講師としてはやりにくいと話した。しかしこれは参加者にとっては別の効果があるらしい。私から参加者に質問を投げかける場合 集合研修では席順に質問する。しかし オンラインだとギャラリービューの配置順に質問することになる。ところが この配置が休憩時間のたびに変わるし そもそも私のビュー配置と参加者のビュー配置は同じではない。ギャラリービューを非表示にしている参加者もいる。したがって参加者から見ると次に誰に質問が来るのかまったく予想がつかない。これがかなりの緊張と集中を与えるらしい。少なくとも研修管理者から言えば これはメリットらしい。

最後に実際に主催者としてZoomを使ってみてその機能に関心した。Zoomの場合 デュアルモニター機能があるのだが これが主催者にはとても便利だ。私は1台のモニターで参加者のギャラリービューを もう1台で私の映像画面を表示している。これにより常に参加者全員の顔を確認することができる。現状9人までしか表示できないTeamsなどは論外だが Zoomでもデュアルモニター機能がなければ 常に20人の顔を見ながらの運営は難しい。またビデオスイッチャーで映像切り替えする私は Zoomの共有画面機能はまったく使わないのだが この共有画面機能を使わずに資料画面をスポットライトしたりできるのも便利だ。

良くも悪くも “With コロナ”の時代には オンライン研修は不可欠だろう。4時間45分に耐えうる喉と眼をケアするしかない。

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